「コロナのショック療法」でデジタル化を命がけで進めよ
ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミスト矢嶋康次氏と、研究員の鈴木智也氏も、時期は明記していないが、「経済がコロナ危機以前の水準まで回復するには長い時間がかかる」という立場だ。
「緊急事態宣言 完全解除-感染防止と経済再開の新しい両立の道を目指す」(5月25日付)というリポートでは、その難しさを、こう述べている。
「ワクチンが早期に開発されて、世界に広く供給されるという『V字回復』の前提が揃わない中では、コロナとの共存を考えた『新たな生活様式』を模索せざるを得ず、社会全体が『With コロナ』の新状態に適応することが活動水準を上げるためのカギになる。企業にとっては、その適応能力が運命を分けるものとなるだろう」
現在は、防疫対策を優先する「フェーズI」から感染防止と経済活動の両立を目指す「フェーズII」に移ったが、厄介なのは「フェーズIII」へと移行するのに、どれだけ時間がかかるか、誰もわからないことだという=図表3参照。図の「PL問題」とは、この期間に起こるであろう「欠陥商品」の問題、「BS問題」とは財務状況の悪化の問題だ。
「フェーズIIIに移るには、有効なワクチンの開発、または治療法の確立が必要だが、感染の第2波や第3波が来た場合には、防疫対策を最優先にしなければならず、フェーズIへと逆戻りする可能性も高く、企業には流動的な事態への対応を求められる」
そんな中で矢嶋氏らが提案するのは、コロナ危機をショック療法として、フェーズIIの段階で「アフターコロナ」を見据えた対策をとることだ。こう指摘する。
「今回の危機では、日本全体のデジタル化が、諸外国に比べて周回遅れになっているという事実が、改めて認識される結果となった。社会のデジタル化は、コロナ禍への対応という意味でも、将来の成長を目指すうえでも、極めて重要な問題だ。直ぐにでも具体的な行動に落とし込んでいかなければならない。
6月は、毎年『骨太の方針』が打ち出される季節だ。デジタル化に関する問題だけは、数年で達成を目指すというような悠長なことは許されない。民間は、生き残りを掛けてデジタル化を急ピッチで進めている。行政や公的部門が、未だアナログな仕組みを当たり前にするようでは、民間の生き残りに向けた動きを阻害し、この危機を乗り越えることも困難にする。今回の骨太では、これまで検討に留めていたものや、将来の達成時期だけが示されてきたものを、今年でやりきるといった強い姿勢に変わるかどうかが注目される」