「韓国語で『チェッコリ』とは教科書を一冊学び終わった後に学生たちが開くパーティーのことを言います。韓国では『チェコリしよう』と食べ物や飲み物を持って集まり、先生と生徒で打ち上げをするんです。本好きのための交流の場というイメージで、そう名付けました」
こう語るのはチェッコリの店主、金承福(キム・スンボク)さんだ。神保町A7出口から徒歩1分。三光堂ビルの3階に韓国の本とちょっとしたカフェ、チェッコリは店を構える。
店主、金さんの歩み
柔らかい光に包まれた心地良い店内中央には机が並ぶ、ゆったりとしたカフェスペースになっており、壁の本棚には韓国語の本や絵本、韓国文学作品、韓国語の学習本など、韓国にまつわる個性豊かな本が、まるで雑貨店のように美しく陳列されている。
ここチェッコリは、金さんが代表を務める出版社『クオン』が直営するブックカフェだ。クオンは日韓の文化交流を目的に、2007年に設立された。
金さんは幼い頃から読書を通して本の中の世界に入り込むことが大好きだったという。日本の大学を卒業後、広告代理店に入社。その後独立し広告会社立を起業するなど、持ち前のエネルギーをバネに突き進んだ。金融危機を機に「大好きな本を作る、出版社を立ち上げたい。そして作った本を売るための空間を作りたい」と決意した。
2011年に設立された一般社団法人K-BOOK振興会では専務理事を務めており、さまざまな活動を通して韓国文学の魅力を発信し続けている。
「チェッコリに来れば小さな韓国に出会える、韓国や本が好きな人や集まれる場所」
そんな場所を目指していると、金さんは話す。
「カフェスペースを使った著者や翻訳所のトークイベントや、韓国語のワークショップ など、さまざまなイベントを年間100本ほど開催しています」
金さんは、これまでやこれからの活動をさらりと教えてくれたが、次から次に溢れるその内容は情熱で満ちていた。
初めて出版した1冊は活動の原点
「私たちのポリシーは、まず『やってみる』ことです。行動してから考える、という姿勢でここまでやってきました」
そう言って、微笑む金さんの笑顔が眩しい。
オススメの本として紹介してくれたのは「親愛なるミスタ崔 隣の国の友への手紙」(佐野洋子 クオン 2017年)。韓国人哲学者「ミスタ崔」と佐野洋子氏が交わした未公開書簡集。作家の新たな一面に出会える、情熱的な1冊だ。
売れ筋の1冊は「菜食主義者 (新しい韓国の文学 1) 」(著:ハン・ガン、編:川口恵子、訳:きむ ふな クオン 2011年)クオン が出版した最初の本で、金さんにとっても大変思い入れが深いものだ。
「出版にあたって何冊も候補を挙げました。その中で『これなら!』と選んだのがハン・ガン氏の作品でした。美しい文章の魅力が絶対に日本の読者にも届くと思った」
その見立ては間違いなかった。今も売れ筋の商品としてチェッコリの店を飾っている。
日本語や韓国語...... 訪れた人々が残したメッセージ
テーブルには小さなノートとペンが置かれており、そこにはお店に来たお客さんのメッセージが書き込まれている。
「初めて来ました! おもしろい本に出会えてうれしい」
「大阪から来ました。韓国語勉強中です」
といったコメントが日本語や韓国語の楽しげな筆跡で書き込まれている。
ページをめくっていると、まるでお客さんがチェッコリで感じたときめきを、追体験しているような感覚になった。「また来ます!」多くの人が、そう書き込んでいる。
現在、新型コロナウィルスの影響で店舗は休業中だ。「大好きな神保町の街が静かで、とても寂しいです」と金さんは話す。しかしネットショップでの販売やクオンの出版など、その活動は歩みを止めない。
これからもチェッコリは『本』をキーワードに、心ときめく韓国へ私たちを導いてくれるだろう。「何かおもしろいことに出会える気がする」気配を楽しみに、営業再開の日を待っている。(なかざわ とも)