新型コロナウイルス対策として国民1人当たりに支給される現金10万円の定額給付金。「なかなか申請書が郵送されてこないな」と、心待ちにしている人が多いだろう。
じつはいま、全国の自治体の窓口で、政府が推奨するオンラインによる申請が大混乱となり、人手をさかれて郵送業務による申請に遅れをきたしているところが多いのだ。いったい、どうなっているのか。
秋田、岡山、高知、高松市...... 足立、荒川、杉並区も中止
定額給付金の支給については、
(1)住民票がある市区町村から郵送されてくる申請書に世帯主が本人名義の金融機関の口座番号などを記入し、口座が確認できる書類と本人確認の書類(運転免許証など)のコピーを一緒に返送する。
(2)マイナンバーを持っている人は、政府のオンラインサービス(マイナポータル)から振込先口座などを入力して電子申請する。
の2通りの方法で申請できる。
担当省庁である総務省は、特に(2)のオンラインの方法のほうが「手続きが早く、迅速に支給できる」として推奨してきた。
ところが、全国の自治体でオンラインによる受け付けがパンク状態になり、中止するところが相次いでいるのだ。NHK(5月26日付オンライン版)「10万円一律給付 13自治体がオンライン申請の受け付けやめる」は、その総務省の集計を元にこう伝えている。
「オンライン申請でトラブルが相次ぐなか、これまでに全国で13の自治体が受け付けをやめたことが総務省の調べでわかった。振込先の口座情報などを誤って入力する人が相次ぎ、自治体の確認作業に時間がかかり、振り込みが遅れる自治体も出ている。総務省のまとめによると、これまでに東京都荒川区や岡山市など全国で13の自治体がオンライン申請の受け付けをやめた」
さまざまな産業分野の技術者、リーダー向けのデジタルメディア「日経クロステック」(2020年5月27日付オンライン版)の「10万円給付オンライン申請の中止や休止相次ぐ、28自治体で対象700万人以上」によると、中止・休止した自治体はもっと多い。同編集部が独自に全国の自治体を調査した結果、5月26日時点で少なくとも28自治体に達するという。こう伝えている。
「政府が『給付金を迅速に給付できる』として推奨したオンライン申請を、少なくとも28の自治体で中止や休止をしていることがわかった。当該自治体の人口を単純に合算すると762万人に上り、行政手続きを担うシステム基盤が脆弱であることが改めて浮き彫りとなった」
日経クロステックは28自治体の一覧表を掲載しているが、それをみると県庁所在地では、秋田市、岡山市、高知市、高松市が、東京都内では、足立区、荒川区、杉並区、国分寺市、調布市、八王子市、府中市、町田市、武蔵野市などの名前が挙がっている。
このうちの香川県高松市のホームページをみると、中止の原因をこう説明している=写真参照。
「オンライン申請は、審査・事務処理に多大な時間を要し、給付が遅れています。原因としては、マイナポータルのシステム上の問題、世帯主以外の方からの申請や誤入力等、申請内容に不備が多く、また、正しく給付するための照合作業がすべて職員による手作業であること......。今後、郵送による申請が始まりますが、このままオンライン申請を継続しますと、二重払いの確認などに時間を要し、給付がさらに遅れてしまいます」
オンラインなのに職員が手作業で処理ってどういうこと?
オンラインのはずなのに、職員が手作業で処理をしているというのだ。いったい、どういうことか――。
神戸新聞(5月14日付オンライン版)は「1人で15回の例も...10万円オンライン申請、不安で何度も手続き?」で、トンデモナイ実態をこう伝えている。
「オンライン申請を巡り、同じ人が何度も申請できる仕様になっていることから、自治体の給付作業が難航している。重複申請は兵庫県の尼崎や西宮、宝塚市などで100件を超え、1人で15回申請した人も。仕組みそのものがわかりにくいこともあり、『郵送で申請を』と勧める自治体も出てきた」
尼崎市に寄せられたオンライン申請は5月12日時点で7575件だが、市の担当者によると「重複申請は軽く100件を超えそう」。西宮市や宝塚市でも100件を超えた。神戸市も数十件発生し、同一人物が7回申請をしたケースもあったという。申請者が個人情報や振込先口座などを入力するが、総務省のシステムでは、誤った情報を入力した場合に修正するために回数制限は設けていないことがトラブルの元になった。
打ち込んだ銀行口座に自信がない人が、自分の持っている口座を全部打ち込んだりするのだ。また、「申請完了後に自身の入力内容を確認できない」(尼崎市)、「手続き完了メールの受信までに時間がかかる場合がある」(芦屋市)などの理由から、不安になった申請者が何度も手続きをする。おまけに詐欺防止のため、申請者の電話での問い合わせには応じないのが原則だから、ますます不安になった人が何回も申請するのだ。
同じ人物から重ねて申請された場合、市の担当者は「どの申請が正しいのか」を一つひとつ確かめなければならないから、たまったものではない。しかも、本人確認の申請者とのやりとりは、「電話だと『詐欺ではないか』と不審がられるため、書面で問い合わせせざるを得ない」(伊丹市)という。
神戸新聞は、自治体担当者の嘆きをこう伝えている。
「ある自治体の担当者は、迅速であるはずのオンラインの利点が失われているとし、『本末転倒だ』とつぶやく。オンライン申請の問い合わせで自治体の窓口を訪れる人は多く、『3密』を招いているとの指摘も。神戸市の久元喜造市長も会見で『(オンライン申請は)控えてほしい』と郵送手続きを呼び掛けた。総務省特別定額給付金室は『システム上、今から仕様を変えることはできず、重複状況は各自治体で確認してもらうしかない。なるべく1回で正確に申請してほしい』と呼び掛けた」
というから、総務省も無責任である。
TBSテレビ系の情報番組「グッとラック」(5月26日付)もこの騒ぎを取り上げた。東京都品川区役所では、職員が2人1組でオンライン申請を読み上げ、声出し確認をしているシーンを映した。
これを見たコメンテーターの西村博之氏(2ちゃんねる開設者)は、
「わざわざ読み上げるなんて、発展途上国のようですね。パリの場合は、税務署の申請窓口がオンラインにあって、そこに申請するとすぐもらえる仕組みです。賢い人がシステムの構築をできなかったのでしょうか?」
と、呆れた。
IT担当大臣が79歳って、どこの国の話?
こんなありさまに、ネット上では怒りの声が渦巻いている。
「田舎のほうが、マイナンバーの普及率は高いけど、いざ使用となると、スマホやパソコン不慣れなお年寄りが多いからこういうことになる」
「ベビーブーム世代は、社内にパソコンが入ってきて慣れている人と、一切コンピューター的なものには触れずに現場で定年までやってきた人と両極端なんだよ。親戚にもiPhone、iPad使って、SkypeやLineで連絡とってくる叔父と、携帯メールすらだめで音声通話以外で連絡取れない叔父がいる。そういう実態に思いが至らないのかな」
「テレビで自治体窓口の処理が紹介されていたが、IT化とはかけ離れた人海戦術に驚いた。郵送以上の負担がかかり、オンラインと郵送の二重申請のチェックも必要になる。自治体の窓口としては、負担の増加にしかなってない。政府はどうしてこういうシステムを導入したのだろうか?」
「そもそもマイナンバーは個人に割り振られているもの。一方、定額給付金は世帯単位で申し込みを行うものだ。それを並行して行わせる時点で間違っている。同じ人が何度も申請できてしまうのも、何をやっているのだという話。これだと故意にネットで二重申請、さらに郵送申請で二重申請を目論む輩も出てくる。こんなに頭が悪い人がマイナンバーを管理しているかと思うと恐怖しかない」
そして、最後にこんな意見が――。
「民間企業ならオンラインは手続きの簡略化であり、窓口の負担軽減になるのが普通ですよ。政府が主導したら逆転現象になり、自治体からNGが出るこの状況は、いかに政府のレベルが低いかという事実を改めて浮き彫りにしました。IT担当大臣の竹本直一氏は79歳で、しかもハンコ議連の会長です。ほかの国のように、有能な若い人がIT担当大臣にならないと日本はダメです」
(福田和郎)