新型コロナウイルス拡大によって、来夏に延期された東京五輪について、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は2020年5月20日、英BBCのインタビューに応じて、「来夏の開催が無理になったら中止にする」と語った。
さらに1年の延期、あるいは2024年パリ五輪とのずれ込みまで考えていた日本側にとっては寝耳に水の発言だった。
「IOCから言い出したくないので、日本側から言わせる事実上の東京五輪中止勧告だ」
という見方が出ている。
ネット上では
「来夏までに新型コロナが終息するはずがない。もう中止にしようよ」
という意見が圧倒的だ。
バッハ会長「もともと中止は安倍首相が言い出した」
英BBC日本語版オンライン(2020年5月22日付)「『東京五輪の中止、理解できる』」とIOC会長 BBCインタビュー」の掲載されたバッハ会長とのやり取りをよく読むと、バッハ会長は終始、
「東京五輪が来夏開催できない場合、中止せざるを得ないのは理解できる」
として、もともと日本の五輪組織委から中止を言い出し、日本側の立場は理解できるという主張を貫いていることが透けて見える。つまり、裏を返すと、仮に中止に追い込まれた場合、それは日本側の責任だといっているわけだ。
BBCには、たとえば、こういうやり取りがある。
――安倍晋三首相は、日本が新型ウイルスを抑え込めないと大会開催は「難しい」と認めている。一方、日本医師会の会長は(大会が開催できるかどうかは)ワクチン開発にかかっているとの見方を示している。この見解に同意するか?
バッハ会長「この質問については、世界保健機関(WHO)の助言を頼りにしている。私たちは一つの原則を確立している。それは、大会を全参加者にとって安全な環境で開催することだ。世界が1年後、2か月後にどうなっているのか誰もわからない。
2022年北京冬季五輪は、東京五輪のわずか半年後の開催となる。安倍氏は私に、日本にとっては来夏が『最後の選択肢』であることを明確にした。日本の大会組織委員会は、新型コロナの影響で1年延期された大会について、代替案はないとしている。率直に言って、これは理解ができる。組織委員会が3000から5000人の人をいつまでも雇うことはできないからだ。
主要な団体のすべてのスポーツ競技予定を毎年変えるわけにはいかない。選手たちを不安定な状態に置いておけない。将来の五輪大会とあまり重複させられないので、日本の組織委員会による今回のアプローチは一定の理解ができる」
つまり、日本側から来年延期になるようだったら代替案はない、中止にすると言い出したというわけで、それを「理解できる」というのである。また、こんなやり取りもある。
――東京五輪の開催にどれくらい自信があるのか?
バッハ会長「私たちは異なるシナリオに備えなくてはならない。来年7月に開催できるようしっかり取り組んでいく。同時に、保健衛生の面から突きつけられるかもしれないシナリオを考慮すると、選手全員または選手の一部、他の参加者の隔離が必要になる可能性がある。とても多くのシナリオがあり、今すぐ取り組むのは簡単ではない。開催予定日の2021年7月23日に世界がどのようになっているかがはっきり見えたら、適切な決定をする」
――日本は新型ウイルスの感染者数が急激に減少しており、パンデミックの影響は他の国々よりかなり小さい。大会を無観客で開催せざるを得ないとの意見も出ているが、どう思うか。
バッハ会長「そうしたシナリオは臆測にとどまっている。私たちが望んでいることではない。なぜならオリンピック精神はファンが一体になることでもあり、これが大会を唯一のものにしている。ただ決断となると、WHO、選手たちや日本の組織委と相談する時間を与えてほしい」
と、「無観客開催」の可能性も示唆したのだった。
「無観客」での開催の可能性にも言及
バッハ会長に続いて、IOCの実務担当者が即座に二の矢を放った。来年の東京五輪の開催の可否の判断の時期について、素早く言及したのだった。
共同通信(5月22日付)「10月が五輪開催判断の重要時期 IOCコーツ氏、地元紙に」が、こう伝える。
「東京五輪の準備状況を監督するIOCのジョン・コーツ調整委員長が、1年延期された東京大会について、10月が実施できるかどうか判断する重要な時期になるとの見通しを明らかにした。地元のオーストラリアン紙が22日までに伝えた」
コーツ氏は206か国・地域から1万人を超える選手や関係者、ボランティアが集まる大会と新型コロナの状況について現実問題を指摘。「ワクチンがないか、あっても世界中で共有するには十分でないことを想定する必要がある」とした上で、再延期はできないとの考えを改めて示した。
このように、いきなりIOCから「最後通牒」を突きつけられた形の日本側だが、反応はどうだろうか。
日刊スポーツ(5月22日付)「来夏無理なら五輪中止 バッハ氏が森会長の『断言』に続き見通し示す」が、日本側のトップの森喜朗会長の動向について、こう伝える。
「組織委の森喜朗会長も日刊スポーツのインタビュー(編集部注:4月29日付同紙『五輪中止回避へ先手打ち延期提案、森会長語る舞台裏』)で、来夏も新型コロナの終息が見込めなかった場合は『2022年への再延期はない。中止になる』と断言していた。五輪主催者(IOC)と大会運営の各トップが同様の見解を示したことで、『来夏に開催できなければ中止』という考え方は、事実上、IOCと組織委の共通認識と見るほうが自然な状況だ」
同紙の4月29日のインタビューでは、森会長は、
「感染症がどうなるか分からない。2年の方が安全だと誰もが考える。だから一応、(3月24日のバッハ会長と安倍首相の電話会談では)提示したが、首相は『1年にしましょう』と言い、決まった。現実的には選手のこと、大会運営上の問題を考えても2年延期はありえなかった。22年は北京冬季五輪があるし、その2年後にはパリ五輪がある。2年後なら中止になる」
と語ったのだった。
組織委の森会長はバッハ氏とツーカーなの?
つまり、森会長はIOCとツーカーだったというわけだが、組織委も一枚岩ではないようだ。朝日新聞(5月22日付)「東京五輪 バッハ氏『来年無理なら中止』 組織委『聞いていない』」によると、オンライン記者会見に応じた組織委の武藤敏郎事務総長は、日刊スポーツ紙での森会長の発言について、こう否定したのだった。
「森会長は、そのぐらいのつもりで準備をしていきたいということを強調されたのだと思う。森会長とバッハ会長の間で共通認識があるとは、私は理解していない。また、バッハ氏と安倍首相の電話会談に私も同席したが、(来年開催できなければ中止という発言は)記憶にない」
つまりバッハ会長の発言はウソであり、森会長の発言も「勇み足」だというのだ。5月22日に記者会見を行った橋本聖子五輪担当相も、
「バッハ会長の(来年開催できなければ中止という)発言は、東京五輪の成功に向けた強い決意の表れではないか。安倍首相との電話会談には私も同席したが、中止という話は一切なかった」
と語ったのだった。
いったい、どうなっているのか。バッハ会長の発言も問題だが、組織委内部でも森会長の発言は大丈夫なのか?
いずれにしても、ネット上では「もうこんな東京五輪やめたら?」という意見は支配的だ。「頑張ってコロナを終息させて開催しよう」という声は皆無といっていい。
「アスリートの皆さんには本当にお気の毒な気がしますが、私も早期に中止を決定したほうが良いと考えます。コロナは『国難』です。今後、第2波第3波も未知数ですし、オリンピックは健全で平和な環境下で行われるべき祭典だと思います。直近、夏の甲子園が泣く泣く中止になりました。やはり、早くハッキリさせて、多くの関係者に新たな道を見せなければならない時期だと思います」
「IOCのような国際的黒組織と縁を切りましょう」
さらには、こんな声が......。
「普通に考えても、来年になればコロナ感染者が完全にいなくなる、またはワクチンが世界中に広まるわけがない。終息までに数年はかかるのではないか。貧困率の高い発展途上国はどうするのか。オリンピックに来るなというのか。オリンピックは中止するしかない。早期の決断をするべきだ」
「4月に米国の専門家チームがワクチン開発、普及、浸透、終息まで2年~3年程度かかるとコメントしていた。東京五輪開催の2021年7月まで1年2か月。かなり厳しい状況です。この時期にバッハ会長が東京五輪の中止に言及した意味は大きい。日本から中止を言い出してくれということだと考えます」
「莫大なオリンピック費用に延期費用、中止決定を延ばすと、どんどん延期費用がかさんでいきます。もうデメリットばかりの五輪、早く中止を決断して欲しい。会場で観戦できるのは極一部の人だけ。五輪が国民すべてで後押しするようなイベントではないことが良くわかりました。個人的には、東京・港区のお台場に住んでいるのですが、近所の潮風公園やお台場海浜公園がトライアスロン会場などのためずっと閉鎖されています。生活の場として返して欲しい」
「テレビの放映料ほしさに無観客試合も考えているって...。安倍首相のほうから中止のオプションを出してきたという発言の裏には、日本側から中止を言い出させて、多額の違約金をとろうという狙いがみてとれます。IOCのほうから中止を言い出すはずはありません。違約金を求められたら、国際的な裁判の場で争って、戦いましょうよ。もうこんな脅迫じみたことを言う国際的な黒組織に関わるのはもうやめましょうよ」
「東京オリンピックを心から望んでいた人なんていますか? 日本各地で災害が起きて、オリンピックにつぎ込むお金があるなら、そちらの支援に一円でも多く回すべきだと多くの国民は思っていたはずです。東京五輪開催にむけたお金と労力すべてを新型コロナ対策と、不況に苦しむ人々の支援に使いましょうよ」
(福田和郎)