新型コロナウイルスの感染拡大騒ぎで、「日本製品不買運動」どころではないと思われた韓国で、ユニクロの姉妹ブランドである「GU」が全店舗の閉店に追い込まれた。
親会社のファーストリテイリングも韓国法人が「リストラ」騒ぎで揺れている。「不買運動による影響」と現地メディアは報じている。いったいどういうことか。韓国紙で読み解くと――。
親会社ユニクロも社長が「リストラ」メール誤送信で大混乱
ユニクロの姉妹ブランド「GU」(ジーユー)の店舗閉鎖のニュースを聯合ニュース(2020年5月21日付)「GUの韓国全店舗が閉店へ 新型コロナ・不買運動影響か」が、こう伝える。
「カジュアル衣料品店ユニクロを運営する韓国法人、エフアールエルコリアは5月21日、低価格衣料ブランド『GU』の韓国内の店舗を、今年8月をめどに閉店すると発表した」
GUは2018年9月に韓国に1号店をオープン。現在3店舗とオンラインストアを運営しているというから、韓国に進出して2年足らずで撤退することになる。ただし、オンラインストアは7月末まで運営された後、ユニクロのオンラインストアで一部製品が販売される予定だ。
聯合ニュースの取材に対し、ジーユーは「新型コロナウイルスによる影響とEコマース(電子商取引)を含む事業構造の変化の必要性など、さまざまな要因を反映し、8月前後に韓国内のオフライン店舗の運営を中止することになった」と説明したという。
しかし、聯合ニュースは、
「今回の閉店は、昨年日本の対韓輸出規制を受けて起こった日本製品の不買運動により打撃を受けたことも影響を及ぼしたとみられる」
という見方を示している。
ジーユーは「GU」ブランドで衣料品の製造・販売を行なっており、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの完全子会社だ。ブランド名は「ファッションを、もっと自由に」というコンセプトに由来する。
ファーストリテイリングのホームページによると、2020年2月29日現在、世界中に440店舗を展開。「ファッション性はもちろんだが、圧倒的な価格競争力への挑戦も続ける」ことをモットーに徹底した安さの追求を図っている。
親会社のユニクロも昨年は、韓国の日本製品不買運動のターゲットになり、手痛い打撃を受けた。余波がまだ残っているのか、最近もリストラ騒ぎでメディアを賑わせた。聯合ニュース(2020年4月7日付)「ユニクロ韓国法人がリストラ検討か 社長のメール誤送信で社内騒然」が、こう伝えている。
「日本製品不買運動により、売り上げに打撃を受けたカジュアル衣料品店ユニクロの韓国法人について、人員削減が迫っているとの見方が出ていることが、7日分かった。ユニクロ韓国法人、エフアールエルコリアのペ・ウジン社長が先ごろ送った電子メールに『構造調整』という単語が含まれていたためだ」
メールには「人員構造調整に問題のないよう、計画どおりの推進を願う」との文言が含まれていた。また「構造調整の推進とともに店舗で循環勤務させれば本社の社員が減る」などの人員再配置に対する内容もあったという。
メールは、ペ・ウジン社長が社内の人事部門長に送ろうとしたものだったが、全社員に宛てて誤送信された。同社では4月7日、個人的なミスであり、構造調整とは無関係だとの立場を示し、火消しに乗り出した。
日本産ビールや日本車は持ち直してきたが...
聯合ニュースの取材に対し、ユニクロ韓国法人の関係者は、
「会社の全般的な構造改革の効率を高めるために議論する過程で誤って発信された。人的構造調整とは無関係だ」
と、リストラを否定したが、社員たちは大混乱に陥っている。
というのも、昨年(2019年)は不買運動の打撃を受けて19億ウォン(1億6500万円)の営業損失を計上。売上高が前年比31%減の9749億ウォン(848億2000万円)に落ち込んだからだ。
これに加え、今年は新型コロナウイルスの感染拡大でファッション業界全体が苦戦、さらなる業績悪化が予想される。戦々恐々の社員たちの不安感を大いに煽る結果となった。
ところで昨年、韓国中に猛威を振るった日本製品不買運動はどうなっているのだろうか。「ようやく落ち着いてきたようだ」と報じるのは、中国・韓国・東アジア関連のニュースサイト「Record China」(レコード・チャイナ)である。「新型コロナの影響で韓国の日本製品不買運動が終了? 韓国ネット『しっかりしよう』(2020年4月8日付)という見出しで、こう報じている。
「4月7日、韓国のテレビ局イーデイリーは、『新型コロナウイルスの影響で、韓国内で日本製品の売り上げが増えている』と伝えた。食料品や玩具などの消費が増え、それにより日本製品への需要も自然と増えているという」
特に不買運動で激減していたビールや自動車などの増加が目立つというのだ。一時は1か月に輸入額が64万8000円(昨年9月)にまで落ち込んだ日本産ビールだが、今年は2月が26万4000ドル(2850万円)、3月が64万8000ドル(6998万円)と増加傾向を維持している。
日本車の輸入額も、今年1月は前年同月比69.8%減の2130万ドル(23億円)だったが、3月は7290万ドル(79億円)と、3~4倍に増えた。
ただし、「Record China」はイーデイリーの報道に対し、ネットユーザーから改めて不買運動を呼び掛ける抗議の声が殺到しているとも伝えている。
「忘却の民族になるのはよそう!」
「目を覚ませ。これだから安倍首相が韓国をナメるんだよ」
「世界中のビールが買えるというのに、わざわざ日本のビールを買う人たちは、一体何を考えているのか!」
日経新聞も認めた「輸出規制は日本企業にブーメラン」
一方で、韓国メディアが「日本に勝った!勝った!」ともろ手をあげて喝さいを叫ぶニュースが飛び込んできた。
日韓の対立は2019年7月、半導体の重要な素材3品目を日本側が輸出管理強化(輸出規制)したことから始まったが、J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では2020年5月13日付「【日韓経済戦争】日韓衝突から11か月 韓国が「勝利宣言」? 日本の輸出規制中、ついに官民一体で「脱日本」に成功!」の記事で、韓国側が国産化や欧米からの供給確保によって、日本企業に依存しない態勢を築き上げたことを伝えた。
このため、これまで韓国に部品を供給してきた日本企業が主な取引先を失う形になり、苦境に立たされていることを日本経済新聞が2020年5月20日付「韓国、脱・日本企業急ぐ 輸出管理で素材会社の打撃続く」がこう伝えたのだ。
「日本のフッ化水素メーカーのステラケミファの2020年3月期純利益は前期比18%減少した。特に半導体生産に使われる高純度フッ化水素(編集部注・輸出管理3品目の1つ)の出荷量は30%落ち込んだ。ステラケミファは『韓国向け輸出管理の運用の見直しなどを背景に半導体液晶向けのフッ化水素の輸出販売が減少した』と明らかにした」
「また別のメーカーである森田化学工業も事情は同様だ。同社は1月に輸出を再開したが、韓国への輸出規模は規制強化前と比較して30%ほど減った状態だ。同社は『一度奪われた分を取り返すのに時間がかかる』と話した」
この日本経済新聞の報道に、中央日報(5月20日付)は「日本、対韓輸出規制でブーメラン...『素材企業の業績相次ぎ悪』」という小気味よさそうな見出しをつけ、こう結んでいる。
「輸出規制の衝撃に韓国企業が急いで代替品を投入したことで、むしろ日本企業にブーメランとなったということだ。日本が今後輸出規制を緩和するにしても韓国の日本企業依存度が再び上がるのは容易ではないだろう。韓国半導体産業協会の安基鉉(アン・ギヒョン)常務は、日本経済新聞に対して、『仮に日本の輸出規制が2019年7月以前に戻っても、一度置き換わった材料は日本製には戻らない』と話した。日本経済新聞は『日韓政府のにらみ合いは日系企業の現場にしわ寄せをもたらしている』と記事を結んだ」
(福田和郎)