トヨタ自動車が2020年5月12日、20年3月期決算と21年3月期業績予想を発表した。
新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停止をどのように織り込むのかがポイントとなったが、21年3月期の連結営業利益予想を前期比79.5%減の5000億円とした。
これまで多くの企業が来年3月期の業績予想を見送っているばかりか、決算発表をも先送りするドタバタを演じており、「さすがトヨタ」と言わしめた。しかし、その数字の信頼性はというと......。
来年3月期の業績予想、豊田社長の強い意向で発表
20年3月期の連結決算(米国会計基準)は、売上高が29兆9299億円(前期比1.0%減)、営業利益2兆4428億円(同1.0%減)、純利益2兆761億円(同10.3%増)となった。
新型コロナウイルスの影響は、連結販売台数の12万7000台の減少などにより、売上高で3800億円、営業利益で1600億円の減少となった。一方、持分法投資利益などにより、純利益は前年比10%以上の増益を確保した。
新型コロナウイルスが20年3月期決算に与えた影響は20年1~3月にとどまっているため、トヨタの業績にそれほど大きな影響は与えていない。「トヨタ方式」と呼ばれる徹底した管理による生産方式の効果もあるのだろう。しかし、焦点となるのは21年3月期への営業を、どのように捉えているかだろう。
これまで多くの企業が21年3月期の業績予想を見送っている。これに対して、トヨタは豊田章男社長の強い意向もあって、来年3月期業績予想を発表したことは評価できる。ただ、この予想がどの程度の信頼性があるのかは不透明だ。
トヨタは21年3月期業績予想を、連結営業収益を24兆円(前期比19.8%減)、連結営業利益5000億円(同79.5%減)とし、純利益予想は未定としている。
この数字の前提としているのが、世界の自動車市場が4~6月期で前年同期の6割、7~9月期に8割、10~12月期で9割、その後に前年並みに戻るとの予想だ。世界販売台数の計画は、前期比155万7000台(前期比14.9%減)の890万台とした。
販売台数の減少により、営業利益が1兆5000億円減少すると予想しているが、記者会見で豊田社長は「リーマン時と比べて販売台数の減少は激しいが、企業体質を強化したことで黒字を確保できる」と述べている。
米国ではクルマのネット販売が活況
最大のポイントは、新型コロナウイルス感染拡大の収束とそれに伴う経済の回復が、「果たしてトヨタのシナリオどおりに進むのか」という点にあるが、これはかなり不確実性の高い予想と言わざるを得ない。
ただ、トヨタの予想をサポートするいくつかの予測があるのも確かだ。通常、経済の悪化は生産活動が悪化することで、賃金や雇用が悪化し、消費活動が悪化するという経路を辿る。しかし、新型コロナウイルスによる経済悪化は、緊急事態宣言による外出自粛を通じて賃金や雇用、消費活動の悪化から始まっている。つまり、生産活動の悪化が原因ではないため、外出自粛の解除により、消費活動が回復しやすいという考え方だ。
加えて、飲食・サービスなどに比べて、耐久消費財の回復は早いと見られている。耐久消費財の代表格であるクルマは、米国でネット販売が活況になっているように、回復が望めそうだ。
外出自粛が解除されれば、我慢していたクルマなどの耐久消費財は購入するが、我慢していた東京ディズニーランドには毎日は行かないし、毎日飲みにも行かないという現象だ。
だからと言って、トヨタのシナリオが当たっているのかは「神のみぞ知る」ということだろう。2020年9月中間期になれば、かなり信頼性の高い予想が出てくることになるはずだ。(鷲尾香一)