「恐怖を感じるほどの落ち込みだ!」(中国地方のレストラン経営)
内閣府が2020年5月13日に発表した、いわゆる「街角の景況感」といわれる4月の景気ウォッチャー調査は、リーマンショック後の水準を下回る過去最悪を記録した。
しかし、そんな中でも逆に「景気が良くなっている」と報告するウォッチャーも、ごく少数だがいるのだ。いったい、どんな商売人たちがウハウハの状態なのだろうか。公開された景気ウォッチャー調査を読み解くと――。
スーパー店主「特需に恵まれて申し訳ない」
内閣府が調査対象にしている景気ウォッチャーは、飲食店主、スーパー営業マン、タクシー運転者など、全国のさまざまな業種から選んだ2050人。景気の状態について、
(1)良くなっている
(2)やや良くなっている
(3)変わらない
(4)やや悪くなっている
(5)悪くなっている
の5項目で評価し、それぞれコメントを寄せている。
内閣府のホームページを見ると、全ウォッチャーの評価とコメントを見ることができる。そのほとんどが(3)の「変わらない」以下だが、ほんの数パーセント、「良くなっている」「やや良くなっている」との答えがある。
特に目立つのが「スーパー」「コンビニ」関係者だ。
「買いだめで売上が増加している。特に最近は(免疫力をつけるための)肉食化傾向から、売り上げはもちろん買上点数、来客数、1人あたりの客単価が伸びているのが特徴だ」(東北地方のスーパー店主)
「小中高校に対する休校要請や、週末の外出自粛要請などが続き、簡単な食品や衛生用品の購入が急増している。また、家庭での食事や家飲みが増えているため、生鮮品やおつまみ類などの売り上げが大きく伸びている。ほぼ前年比120%で推移している」(近畿地方のスーパー営業担当)
「小中高の休校などで、子供や、子供を預かった祖父母の来店がかなり増え、売り上がげ増加している」(近畿地方のコンビニ店主)
そして、申し訳なさそうにこう語るスーパー店主(近畿地方)も。
「好調なのはスーパー業界に限った話で、世間全体では確実に悪くなっている。外食を控えたり、休日の在宅比率が上がったりしたことで、スーパーに特需が生まれているが、喜べることではない」
「ドラッグストアー」や「薬局」も、急激に売り上げを伸ばした業種だ。マスク、消毒用アルコール、衛生用品、体温計などが売れている。
「きちんとした健康情報を教えてもらえる媒体として、街の医薬品店が認められつつある。正しい健康情報に耳を傾けてくれる真摯な客も増えている。有り難いと同時に責任を感じている」(北海道地方・薬局経営)
と、「かかりつけの薬剤師」として地域に貢献する誇りをもって仕事にうちこむ人がいる一方、
「新型コロナウイルスが終息すれば変わるかもしれないが、終息しないようならば売り上げで40%増という現在の状況で推移するとみている」(東北地方・薬局経営)
と、コロナ特需のうれしさを隠さない人もいる。
「巣ごもり家電」の勢いが東京五輪延期を吹き飛ばした
「家電販売」も好調のようだ。
「新型コロナウイルス関連の需要があり、販売量が増えている」(北関東地方の店主)
「巣ごもり需要により景気はやや良くなっている」(中国地方の営業担当)
などと「コロナ特需」を認めている。
たとえば、調査会社のGfkジャパンが2020年4月22日に発表した家電販売業界の動向調査によると、東京五輪の延期によってテレビ需要の伸びの期待は頓挫したが、それ以上に新型コロナウイルス感染症予防の関連商品や「巣ごもり」用品の需要が大きかったからだ。
感染症予防では、電子体温計、空気清浄機(特に加湿機能付き)などがよく売れた。また、「巣ごもり」関連としては、家の中で子どもと一緒に調理できるたこ焼き器、ホームベーカリー、ホットプレート、さらに買いだめ食品を保存できる大型冷蔵庫がある。
また、在宅テレワーク用のパソコン、ウェブカメラなども伸びた。特にウェブカメラは前年の4倍以上の売れ行きだという。
在宅ワークが増えたことで、通信関連会社にも追い風が吹いた。東海地方の通信会社営業担当が、こう報告する。
「在宅ワークをするためなど光回線の新規申込みが増えている。しばらくはインターネット回線の申込みが増加するだろう。在宅勤務の増加や今後の業務体系の見直しにより、VPN(インターネット上に仮想の専用線を設定し、特定の人のみが利用できる専用ネットワーク)を利用した通信関連が増加傾向にある」
また、「本屋」や「文房具店」も子供たちが休校して家にこもっていることが影響して、思わぬ好景気になった。東海地方で書籍と文具の両方を扱っている店主がこう報告する。
「今月(4月)は学校が休みになり、前半はドリルや知育系商品、文具ではノートやパズル等、自宅で長い時間を過ごすための商品が好調で、1~2割売り上げが アップした。しかし、3連休明けから落ち着き始め、後半は前年を下回り、全体としては1割ほどアップした」
コロナ疲れを「おうち花見」で癒す生花店が好調
自動車販売関連も好調のようだ。中国地方の自動車販売店(営業担当)が、こう証言する。
「景気が悪いと言いながら、新型車を検討するお客様は増加しており、景気はやや良くなっている」
これはどういうことか――。東洋経済オンライン版(2020年5月9日付)「『中古車サブスク』はコロナ特需を生かせるか ガリバーの『NOREL』通常時の5倍の問い合わせ」によると、新型コロナの感染拡大で公共交通機関の利用を避ける動きが定着する中、中古車のサブスクリプション(定額制利用)が急激に伸びているという。クルマは「3密」をさける一番安全な手段だ。この際、新車を買おうという人が地方に増えているのだろうか。
卒業式や入学式など多くのハレのイベントが中止に追い込まれて、需要減少が心配された「生花店」だが、ここへきて息を吹き返したようだ。九州地方の生花店主がうれしそうに、こう報告している。
「新型コロナウイルスで騒がれている状況であるが、花を自宅に飾ったり、開店祝いの花であったりなど予想外の注文があり、数か月前よりとても良い状態になっている」
女性向けニュースサイト「HAPPY PLUS(ハッピープラス)」(2020年4月23日付)の「【生花の力】でコロナ疲れ解消! おすすめのフラワーデリバリーサービス」などによると、コロナ疲れをいやすために自宅を花で飾る人が非常に増えているという。そのため、デリバリーサービスを始めた生花店も多い。また、桜の花見を外でできなかった人が「おうちで花見」を楽しむケースもあるそうだ。
5月10日は「母の日」だったが、宅配業界などが「母の日」だけに花を贈ると配達がパンクするため、5月全体を「母の月」として花を贈ろうと呼び掛けていることも追い風になっている。
他県からの来訪者ラッシュのゴルフ場
自粛要請が緩い地方独自の事情からか、ゴルフ場も大いに恩恵を受けている。他県からの来訪者が多いらしい。東海地方のゴルフ場経営者がこう語る。
「5月の予約数は前年同月と比べて多く、県内の各ゴルフ場とも順調に推移している。今後、新型コロナの影響でどのようになるか心配だが、来客数に関しては変わらず推移すると見込まれる」
変わったケースでは「百貨店」があった。大都市の百貨店はスーパーとは逆に売り上げが減少した業種だが、ローカル百貨店の場合は違う事情があるようだ。甲信越の「百貨店」(営業担当)が、こう報告している。
「新型コロナウイルスの感染拡大次第で状況は大きく変わってくる。ただ、当地の百貨店が1店舗閉店したため、当店への客の流れは確実と考えられる。また、閉店した店からのブランド移動やリニューアルブランド、館内の大規模リモデルもあり、来客数、売上は伸びていく」
最近、ライバルの百貨店がつぶれたため、とりあえず客数と売り上げが伸びているが、今後の新型コロナ感染拡大状況によっては安心できないというのであった。
(福田和郎)