「名もなき雑務」という仕事が職場にはある。「お茶出し」「電話取り」「おみやげ配り」「社内便受け取り・配布」「給湯室の掃除」「コピー取り」......。
誰からも褒められず、たいして評価もされない。ただ、黙々とこなすだけだ。そんな誰かがやらなければならない仕事の数々が、なぜか女性が担わされることが少なくない。
「それでいいのか!」女性たちが声を挙げ始めた。インタネットの投稿から彼女たちの声を拾うと――。
「名もなき雑務」1位はお茶出し、2位は掃除・片付け
話題のきっかけになったのは、小学館の女性向けサイト「Kuhura(クフラ)」に載った「なぜか女性社員が担当している『名もなき雑務』...4位は『おみやげ配り』1位は?」(2020年2月12日付)というタイトルの記事だ。
「会議資料作り、電話対応......。職場には特に担当は決まっていないけれど、女性側に多く偏っている『小さな雑務』ありませんか? 20~40代の働く女性200人に、女性に偏っていると感じている雑務についてアンケートで聞いてみました」
という前置きがあり、1位から5位までを紹介している。
(1位)お茶出し... 来客用、上司や営業マンに朝のコーヒー淹れなど。
(2位)掃除・片付け... トイレ、ロッカールーム、食堂、冷蔵庫の中の掃除、給湯室の片付け、シュレッダーのゴミ捨てなど。
(3位)女性に偏っている雑務は特にない。
(4位)おみやげ配り... お中元・お歳暮の頂き物や、出張・帰省のみやげ物の仕分け、ケーキや果物の切り分けなど。
(5位)郵便物・宅配便の取り扱い... 各部署に社内便受け取り、年賀状作成など。
また、このほかに女性が担わされる「わが社独特の変わった雑務」としてこんな例も紹介していた。
「観葉植物の世話」
「備品の予約、予定表の書き換え、名刺発注」
「電話対応、コピー用紙補充、インク取り換え、飲み会幹事、送別品買い出し」
などなどだ。
この記事には「Kufura」をはじめ、「がーるずチャンネル」「CHANTO WEB」など、いくつかの女性向けサイトで「うちの会社でも同じ」と共感の投稿が相次いだ。
「うちの会社も、お茶だしやおみやげ分けは女性社員がする。私は事務職だからするけど、専門職の設計部や営業部の女性までがしているのを見ると、それを頼んだヤツはその女性の日頃の仕事をバカにしているのかと悲しくなる」
「雑用ばかりで経理の仕事が終わらなくて、しまいには上司に本業が遅いと怒られました。一生懸命やっても認められないので、お茶だしも、電話受けも、コップ洗いも、郵便出しもほぼない、まったく違う業種に転職しました。やっぱり達成感がある仕事に転職してよかったと思います」
「今まさにそんな雑務の仕事です。『もう少し早く終わらせないと!』と言ってくる女上司は年功序列が染み付いて、雑務はしないのに仕事を急かします。2分おきにかかる電話をとりつつ、来客時にお茶を出し、窓口対応しながら郵便物を仕分け...細かい仕事が積もり積もって業務をどんどん圧迫します。もう令和の時代なのに、なぜ女がしなければならないのかいつも疑問です」
女性社員が男子トイレを掃除する上場企業
掃除や片付けに関しては、驚いたことに男性用トイレの掃除を女性にやらせている職場があるようだ。こんな投稿があった。
「前に病院で医療事務やっていた時、事務所のトイレ(男女とも)とか流し台の掃除は全部女性がやるようになっていた」
「20人ほどの支店です。誰でも知っている上場会社ですが、本社と営業所の差が激しすぎます。雑務といわれるものはすべて女性に任されます。特に男子トイレ掃除と重たい荷物が届いたときはウンザリします。外部からの出入りも多い男子トイレはとにかく汚い! 吐き気がします。重たい荷物が届いた時も男性がいるのに何もしません。上司に変化をお願いしても、『いつもありがとう』と言われるだけで変化はありません」
朝一番のコーヒー淹れが、女性の担当になっている職場が意外に多い。
「お茶出しやコーヒー淹れがある会社は男尊女卑だと思う。うちでは朝一はもちろん、3時にもコーヒー配るのが日課。コーヒーメーカーの片付けまでやって、オジサン連中は女がやって当然なカンジ。夏は毎日麦茶を沸かす。自由に飲めるようにと」
「お客さんへのお茶出しを若い男性社員が『ボク暇だから行きましょうか?』と立候補したら、ジジイの主任が『そりゃ女のほうがいいから。お前じゃお客さんに失礼だ』と断って、女性社員からフルボッコにされていたなー」
「うちの病院は医局秘書が、朝のコーヒー淹(い)れをやっている。秘書が休みの日は女性社員が代わりに入れていたけど、先生によってブラックだったりミルク2本だったりこだわりが違うから、それを覚えるのが大変だった。女の人が淹れると先生が喜ぶから、男性社員は絶対しないよ」
このほか、シュレッダーのゴミ捨てとか、コピー用紙の取り換えとか、女性には山のように細かい仕事が降ってくる。
「毎朝やっているシュレッダーのゴミ捨ては力仕事なのに、男性は知らん顔。お前もやれよな!といつも思う。あと、ゴミ袋に移している時に『今シュレッダーしていいですかー?』と聞いてくる奴。バカばっかり」
「社内でおみやげ配りをしているからなのか、同じ社内の人に内祝とか香典返しをついでに渡してくれと頼まれたときはイラッとした。しかも後輩のオトコから。『そういうのは自分で御礼を言いながら渡したら?』と言ったら、『その度に色々聞かれて時間取られるんですよね~』とか言って、勘違いすんなよ小僧!と腹が立った」
「コピー用紙をなぜ男が補充しないのか?ずっと音が鳴っているに一向に動かない。60歳前後のジーチャンが『コピーの紙、ないよ』とわざわざ事務の女性に言って補充させている。女の人に何でもしてもらった年代なのかもしれないけど、それくらい自分でしろよ、と思うわ」
「私が新卒で入った会社も洗濯は女性だけがやらされた。化学薬品の会社だったけど、作業着の洗濯は、事務職も研究職も関係なく女性全員がやる感じだったけど、さすがに大変になって洗濯するためのパートさんを雇うことにした」
「電話とるのもほぼ女だよね。小さい病院の医療事務ですが、患者さんの家族が来て対応している最中に電話がかかってきた。奥のデスクに座っているオッサンが電話にちっとも出てくれない。出てほしいと思って『あの~』と言いかけたら、『電話出てあげよか?』と言った。なんか無性に腹がたった」
「お土産配り」を断固拒否した痛快女性のひと言
こうした「名もない雑務」の強制に抵抗する、痛快な女性も存在する。
「私を庶務担当と勘違いした年上の男性社員が、旅行のお土産を配るように頼んできた。『ご自分で配布されたらいかがですか?』と言ってやった。それ以来、各人が空いているデスクに『ご自由にどうぞ』のメモを付けて置くようになった。女性側が断る勇気も必要だと思う」
「慣れる前に言ってくれた新人チャンがいた。『えー、お茶当番って女性だけなんですかー?○○君いいなー』と隣の同期男性に言ったのですが、けっこう声が大きくて(笑)。ここぞとばかりに女性陣が賛同して、全員がお茶番担当になったのですよ」
「取引先の会長(高齢)が来た時、新人の男の子がお茶を出したら、その会長、『新鮮でいいねえ~。うちも女子にばかりやらせないで男にもやらせよう』とウキウキして帰っていったよ。後日担当者が来た時、男性社員も交代でお茶出しとか来客対応とかさせられるようになったとボヤいていた。ざまあみろと、ほくそ笑んだ」
会社風土の中に「家庭」があり「女性社員=主婦」感覚が
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、職場で女性が担わされることが多い「名もなき雑務」について意見を求めた。
――今回の「名もなき雑務」投稿騒ぎを読んで、率直にどんな感想を持ちましたか。
川上敬太郎さん「未だ、日本中の会社で見られるワンシーンであり、矛盾の一つだと感じました。その多くは、雑務は女性に任せるべきもの、女性のほうが向いている、という根拠のないアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)にもとづくものではないかと思います。
一方で中には、上手にできる人をキャスティングしたら、結果として女性に偏ったケースもあると思います。たとえば、顧客からいただいたケーキを取り分ける時、日頃の仕事ぶりから、上手に手早く対応できると判断した人に依頼した結果、女性であることが多かったという具合です。しかし現実としては、何らかのアンコンシャス・バイアスが働いているケースのほうが多いように感じます」
――これまで、「名もなき雑務」に関する実態や、女性の意識を調査したことはありますか。
川上さん「直接、雑務にフォーカスした調査ではありませんが、以前、働く主婦層に対して『職場の同僚との花見』に関する調査をした時に、興味深い結果が出ました。職場の同僚と花見をしたいと思わない人が6割を超えていたのです。男性ならば、もっと多くの人が同僚と花見をしたいと思うかもしれません。
女性たちが同僚と花見をしたくない理由として、『準備、片付けに手間がかかる』『気を使う』『場所取りが大変』といった声がありました。これらは『名もなき雑務』の一種だと思います。本来であればくつろぐための場であるはずのお花見も、『名もなき雑務』が女性に偏りがちになるため、花見を遠慮したいという気持ちになる人が多くなるのではないでしょうか」
――なるほど。確かに後片付けのことが気になっていては、花見を心の底から楽しめませんよね。こうした女性だけが担わされる「雑務」が非常に多いということは、日本の企業風土の中に、会社の中にも「家庭」が存在し、「主婦=家事」と同様に、「女性社員=雑務」という性的役割分担が浸透しているということなのでしょうか。
川上さん「そういう面があることを否定はできないように思います。かつては『寿退社』という言葉がありました。女性社員は男性社員のお嫁さん候補として入社する、という見方が一般的でした。そんな環境では、『名もなき雑務』を家事に見立てて、職場内を疑似家庭のように捉える雰囲気もあったのではないでしょうか。
今の感覚からすると差別ですが、当時は差別という感覚よりも、習わしとして多くの人に受け入れられていたのだと思います。しかし、時代は変わり、今の価値観には馴染まなくなってきています」
「男性トイレの掃除」「上司のコーヒーに砂糖」はパワハラか
――投稿者の中には「男性トイレまで掃除させる」「女性社員に上司の長のコーヒーに砂糖のスティックを入れさせる」といった行為があります。こういった行為はパワハラ、セクハラなどに該当しないでしょうか。
川上さん「職場内で強い立場にあることを背景に、不当な圧力をかけられていると受け手側が感じていたら、パワハラやセクハラに該当する可能性はあると思います。最近は聞かなくなりましたが、お茶出しやコピー取りなどを"女の子の仕事"とか"女の子にやらせよう"と言っていた男性社員がかつてはたくさんいました。今も通用すると考えていたら、時代感覚から大きくずれていると思います」
――投稿者の中には勇気を出して声をあげ、こうした習慣をストップさせた人もいますね。雑務にストレスを感じ、なんとかしたいと思っている女性に、川上さんならどうアドバイスをしますか。
川上さん「習慣を変えるためには、事実を積み重ねることが必要です。『名もなき雑務』を男性が行うシーンが日常の中に増えれば、習慣は変わっていくと思います。ただ、そのきっかけ作りのしやすさは、職場の風土によってかなり差があるでしょう。なかには、女性社員が毎朝男性社員にお茶出ししたりする風土を良いことだと考えている人もいます。それが組織のトップや管理職の考え方として浸透している環境であれば、意見を言うのは相当勇気がいります。
そんな環境の中で個人の意見をぶつけると、風土を乱す存在と見られてしまう懸念もあります。意見を通す際には、同じ立場に置かれている人同士で話し合い、しっかりと合意した上で、皆の総意として伝えるのも一つの方法だと思います。また伝える際には、ただ権利主張しているだけだと受け取られてしまわないよう、組織の生産性やより良い組織風土づくりなど、会社にとってのメリット、経済効果といった観点から根拠を説明することをお勧めします」
――本来は、経営者や職場のリーダーが考えなくてはならない問題ですよね。
川上さん「そのとおりです。組織風土の問題は、社員からは指摘しづらいものです。良かれと思って進言しても、組織風土を乱す不良分子と受け取られてしまっては、意見を言う気持ちも失せてしまいます。本音を言い出せないまま、退職してしまう社員が出てしまう可能性もあります。経営者や職場のリーダーは、意見を伝えやすい風通しの良さに日頃から心を配っていただきたいと思います」
(福田和郎)