多くのビジネスパーソンにとって「Excel(エクセル)」は、仕事で欠かせないアプリの一つだ。表計算ソフトとしてウィンドウズ版が登場したのは30年以上も前の1987年。これまでにバージョンアップが繰り返されて、使いやすさは格段に向上しているはずだが、ユーザーの中にはなお「ミスがなくならない」との嘆きが絶えない。
重ねた改良で使いやすくなったExcelだが、「時短しながらミス撲滅 Excel 無敵のルール」によれば、その分、誰もが自己流で操作できるようになり、そのことがミスがなくならない大きな原因になっている。
ミスをなくすために欠かせないことはルールを定めることだ。
「時短しながらミス撲滅 Excel 無敵のルール」(榊裕次郎著)インプレス
「味付けの統一」が必要
著者の榊裕次郎さんは、職業訓練学校のMicrosoft Office(マイクロソフト・オフィス)講師としてExcel指導のキャリアをスタート。その後10年以上にわたり大学、企業や官公庁で指導・教育に従事。2012年から独立してフリーの立場で講師などを務める一方、国内最大級のスキルシェアサービス「ストアカ」でExcelの少人数講座を担当している。
ストアカ(ストリートアカデミー社)では2019年を通して全講師の上位1%以内に入るレビュー平均4.67点(最高5点)の高評価を維持した。
榊さんが担当するExcel指導の場には、業務も職種もさまざまな人たちがやってくるが、Excelをめぐってはミスがなくならないという悩みは共通しているという。
「Excelは汎用性も自由度も高いアプリケーションであるがゆえに、使うにあたって迷いが生じ、ミスが起こりやすいのです」
と、榊さんはいう。
とくに近年はクラウド上でデータを共有し、複数人で同一のファイルを操作する機会が多くなっている。それに合わせて、Excel側でも汎用性を高めている。ますますファイルを扱う人たちが、それぞれ自分ができるやり方で操作ができるようになっており、ミスが起きる可能性は高まっているのだ。
しかも、どこかの段階でミスがわかっても、それまでの過程がよくわからず、修正が簡単にはできなくなっていることも考えられる。
榊さんは料理を例に引いて、こう説明する。
「レシピを見ずにおいしい料理を作れるのは、熟練のシェフだけ。何のルールもなく作られたワークシートは、作った本人には好みの味付けでも、ほかの誰かには苦手な味。その誰かがまた自分勝手に直そうとして、とんでもないシートができあがる」
クラウド上でのデータ共有は「味付けが統一されていない環境」。その中で作業していては、扱いにくいシートがずっと残り続け、一つの作業や処理にとんでもない時間がかかってしまうことになる。ミスの撲滅を合わせて、合理化のためにもルールが必要なのだ。
在宅でやりがち「してはいけない」上書き
新型コロナウイルスによる感染拡大で在宅テレワークに切り替えている人が増えている。榊さんは4月上旬に執筆中だったという本書で、在宅で仕事をしている人の中にもExcelをめぐって新たな課題への対応に悩まされているのではないかと述べる。
在宅でテレワークによりExcelを操作する場合、考えられる方法は二つ。クラウドのストレージにアクセスするか、共有サーバーにアクセスするかだ。
リモート操作ではいずれにも困った問題があり、それは、一つのファイルを複数人が更新し保存競争が起きる可能性があることだ。一人がローカルで修正したファイルを、もう一人が更新したファイルに上書きしてしまう場合などだ。
共有ファイル上で行われた更新が、複雑で重要なものだった場合は、個人的な労力のロスでは済まされない損失になることもある。
テレワークのような環境ではルールの設定がさらに必要性を増す。ファイル共有の問題で考えられる解決ルールも二つ。一つはクラウドストレージのバージョン管理の機能を活用すること。もう一つは、ファイル名に更新中であることを明記して上書きを防ぐことだ。付随して、メールやチャットで、割り込み問い合わせができるようにしておくオプションも考えられる。
本書では
「アクティブセルをA1に戻すのは『絶対』」
「列はグループ化、行の非表示は禁止」
「SUMIFS関数を使うならSUMIF関数は使わない」
「セル範囲を選択しない一括変換は危険行為」
「普段から決まったフォントだけを使う」
などの、実施しないとどういうミスが考えられるかを解説しながら、50項目の「定めるべき」ルールを紹介している。
「時短しながらミス撲滅 Excel 無敵のルール」
榊裕次郎著
インプレス
税別1500円