「統計中止」が政策に悪影響を与える可能性
4月23日には、経済産業省が「工業統計調査」について、回答方法を従来の調査員の回収からインターネットまたは郵送による回答に変更し、「やむを得ず期限内に回答が困難な場合には、可能な限り柔軟な対応を行う」と発表した。
こちらの調査は毎年実施され、工業の実態を明らかにして産業政策、中小企業政策など、国や都道府県などの地方公共団体の行政施策のための基礎資料を得るとともに、経済センサス活動調査の中間における経済構造統計を作成することを目的としている。
この他にも、多くの統計調査が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、調査方法を変更している。総務省では「小売物価統計調査」を、対面調査から電話調査に切り替えている。この調査は消費者物価指数の算出などに使われる商品の店頭価格を調べる。
農林水産省では、スーパーでの野菜価格を調べる「食品価格動向調査」を、一時的に中止した。総務省の家計の収入と支出の実態を把握する「家計調査」や月々の就業・失業の状態を把握する「労働力調査」も郵送による回答に変更する。
新型コロナウイルスの感染拡大で、政府の政策決定のベースとなる「基幹統計」と言われる統計の中止や調査方法の変更は、統計としての継続性に問題が発生するし、信憑性が問われることになり、今後の政策決定に対して大きな影響を及ぼす可能性もある。
それでなくても、厚労省の「毎月勤労統計」などの「統計不正」が表面化したのは、昨年2月のこと。統計中止や調査方法の変更によって、もし再び、「辻褄あわせ」などが不正に行われるようなことがあれば、統計の信憑性がますます問われかねないわけだ。
すでに外出自粛により、特にサービス消費関連の調査統計は大きく悪化すると見込まれている。しかし、その実態を正確に調査し把握することは、難しい状況になっている。たとえば、1~3月期GDP(国民総生産)などが実態から乖離した結果となる可能性は高い。
新型コロナウイルスは、実体経済の悪化とその裏付けとなり得る「統計」を通じて、政策に対しても悪影響を与えようとしている。(鷲尾香一)