日本時間の2020年4月21日未明。この日、商品先物市場は歴史的な瞬間を観測した。なんと、米国で取引されている原油先物が「マイナス」の価格で取引されるという異常事態が発生したのだ。
原油価格が「マイナス」で取引されるということは、すなわち、「お金を払って原油の在庫を引き取ってもらう」ことを意味する。いったい、この日なにが起きたのだろうか――。
原油のマイナス価格はなぜ起こった?
この「歴史的瞬間」が起きたのは、日本時間の深夜のことで、TwitterなどのSNS上では、原油相場をチェックしていた個人投資家が、自身の証券口座の価格チャートがマイナスの価格を付ける瞬間を写真に収めて、アップするといった光景がみられた。
筆者はといえば、その時間には眠っていたため、ある意味記念すべき瞬間に立ち会えなかったのは残念だった。
ところで、筆者の知り合いに「いくらなんでも安すぎるから、下げ止まるだろうと思って買い向かったけど、結局下がり続けて10万円負けたよ」と言っていた人がいた。
商品先物取引は、取引の「期限」が存在する。今回、史上初となるマイナスの価格をつけたWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエット)原油先物5月限は、現地時間で4月21日が取引最終日だった。
現在、中国・武漢市を発端とする新型コロナ・ウイルスの感染拡大を受けて、世界的に経済活動が低迷している。米国も例外ではなく、経済活動が低迷する影響で、原油の需要は大きく減った。そのため、物理的に備蓄の限度を超えて不要となった原油在庫が、取引最終日を目前に買い手の付かない中で投げ売りされた結果、このような史上初の下落を記録したと考えられているようだ。
今回、原油価格がマイナスとなったのは、米国で上場されている原油先物だったが、この取引に関わっていたのは、米国人だけではなかったとみられる。米国の主要な金融メディアであるブルームバーグ通信の報道によると、中国の大手国有銀行である、中国銀行の原油先物関連商品で個人投資家が被った損失は、推計で1000億円に到達したようである。
商品先物市場は「ゼロサム・ゲーム」だ
さて、そんな中国銀行は4月20日、WTI原油先物5月限を1バレル=マイナス37.63ドルで決済している。そのため、中国銀行の投資商品「原油宝」の顧客は、損失に見舞われた。これを受け、「原油宝」の取引を停止する処置が行われた。
中国ほどの規模ではないが、日本人の個人投資家でも、「値ごろ感」を理由に原油先物を買って損した人はいたようだ。
インターネット上では損失の報告が多かったが、一般に商品先物市場は「ゼロサム・ゲーム」である。つまり、誰かが損しているのなら、他の誰かがその分得をしているということである。では、今回は誰が得をしたのだろうか?
考えられるのは、商品先物市場における「順張り型」のシステムトレード戦略トレーダーだろう。
1980年代、米シカゴで「タートルズ」と呼ばれるシステムトレーダーの集団が、商品先物相場で大成功を収めたことで知られているが、当時の手法を使用していれば、今回の下落でもかなり早い段階で「新規売り」で参入することができていたはずだ。
そして、1980年代の伝説のトレード戦略は、現代においては米国のCTA(商品投資顧問業者)と呼ばれる業者の多くが採用する戦略に影響を与えている、とされる。
彼らは一般的に、商品先物や通貨、株価指数先物などの幅広い金融商品にシステム的な戦略を用いて分散投資していて、多くがショック時に強い順張り型のトレードをしている。
今回の相場において、おそらくCTAと呼ばれる彼らが、大きく利益を上げたのだろうと推察される。(ブラックスワン)