本書「英語の品格 実践編」(アルク)は、3年前に出版されベストセラーになった「英語の品格」(集英社インターナショナル)の、文字どおりの実践編。ビジネスの現場で頻出する「60のシチュエーション」を想定。初級~上級の品格レベルに分けて例文を挙げて解説する。
「ステイホーム」をともに過ごす候補の一冊。
「英語の品格 実践編」(ロッシェル・カップ、大野和基著)アルク
「日本語」の勉強で文法は教わらない
学校で英語を習う際には、「三単現のs」や進行形、不定詞、関係代名詞など「英文法」を理解することが求められ、このことが苦痛となって英語嫌いになる場合が少なくないとされる。しかし、文法をわかるようになれば、英語を理解できるようになるのではないかという道筋は見通せるようになるのではなかろうか。
これに対し日本語を学ぶ「国語」の授業では、英語ほど文法が重視されることはない。英語を学校で学び始めると多くの人が、ふだん使っている日本語では「文法」を学んだ経験がなかったことに気づく。そして、英語は「文法」をベースにしてコミュニケーションが成立しているのと比べて、尊敬語や謙譲語、丁寧語がある日本語は環境や状況に依存する言葉だと思うようになる。
こうした思い込みで、知らず知らずのうちに日本語が、言語の中で最も難しいように思えてくる。そのため、反対に英語が比較的簡単な言語のように思う日本人が少なくないという。流暢な日本語を操る欧米人に出会うと、「日本語、おじょうずですね」と、驚く日本人がいるのはその証拠だ。
ところが、著者のロッシェル・カップさんと大野和基さんによる最初の本「英語の品格」では、日本語と英語を、特に話し言葉として比べた場合にはまったく逆であることが指摘された。
それは、英語では話し言葉でも語彙が非常に多いことが、まず一点。欧米の映画などを観ていてもわかるが、会話の中でも難しい単語が使われることがしばしばある。使う語彙が社会的地位の指標にもなるためだ。
発音が綴り(spell)と一致しないなど不規則性が2点目。日本人の英語学習では近年、ヒヤリングが重視されているのはその表れだろう。
60のシチュエーションで学ぶ
日本語との感覚的な比較で、英語を簡単視していることの弊害といえるものの一つは、「人に依頼するとき文頭にplease(プリーズ)をつければ、どんな場合でも丁寧になると思い込んでいる日本人が多いこと」。
たとえば、日本で米国人などの英語を話す訪問客を迎え、靴を脱ぐよう求めるとき。失礼がないようにと発する言葉は「Please take off your shoes(靴を脱いで)」のようになるのではなかろうか。 しかし、これだと英語的には「不躾」に聞こえるそうだ。学校で習う英語レベルで「品格」ある言い方なら、
「Would you mind taking off your shoes?」
(靴を脱いでいただけませんか)
などが考えられる。
本書では、7章に分けて「挨拶や決まり文句」、「会話術、ディスカッション術」、「言いにくいことを伝える(断り、反論、クレーム)」、「交渉(価格交渉、無理なお願い)」などの場面に分け、計60のシチュエーションで、この「靴」の事例のような、「品格」ある言い方を解説する。 それぞれについて、NG例から、品格レベル初級、中級、上級と4つの例文が添えられている。グローバル化が進むビジネスの中で、成功に導く「繊細で、丁寧な」英語が身に付く一冊といえる。
著者のロッシェル・カップさんは、米国ニューヨーク州生まれでシカゴ大学経営大学院修了(MBA)。コンサルティング会社社長であり、北九州市立大学教授を務める。文化コミュニケーション、人事管理、リーダーシップと組織開発を専門とする経営コンサルタント。
共著者の大野和基さんは国際ジャーナリスト。東京外国語大学英米語学科卒業後の1979年に渡米し、コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学んだ。国際情勢や医療問題について精力的にリポート。世界の要人への単独インタビューを数多く成功させている。
「英語の品格 実践編」
ロッシェル・カップ、大野和基著
アルク
税別2000円