若者に未来を! 政府のコロナ対策は「やりすぎ」 病気に勝って「経済で死ぬ」つもりなのか?(小田切尚登)

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   政府は2020年5月6日に期限を迎える新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を、延長する方針を固めた。

   「このまま放置したら40万人亡くなる」「人との接触を8割減らしなさい」という北海道大学の西浦博教授のご宣託により、日本人は前代未聞の外出制限を始めた。ほとんどの日本人は外出もままならず、悶々とした日々を過ごしている。それが、さらに延びる。

   影響は甚大である。旅行やホテルなどのサービス業の多くのビジネスが休業状態に陥った。音楽や演劇・スポーツなどの文化活動ができなくなった。多くの人が大幅な収入減を余儀なくされた。外出できないためにストレスがたまってくるため、離婚や家庭内暴力が増えている......。かつて例がないような事態が進行している。

  • 将来が描けずに悩む若者に、どんな言葉をかけてあげることができるのか!?
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エボラ、SARS、MERSのワクチンは未だにない

   まじめな日本人は「命ほど大事なものはない」ということで、政府の指示に従順に従ってきたし、今後もそうするだろう。たしかに、命より大事なものはない。目の前で溺れている子どもがいれば、助けようとしない人はいないだろう。

   しかし、短期的にはそのとおりだが、中長期的には別の判断をしないといけない。人はただ生きていければ満足というわけではない。憲法25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。教育もスポーツも旅行も全部ダメという今のような状況は、いわば憲法違反の状態といえるのではないか。

   それを変えるためには、カネがいる。医療も教育も福祉も防衛も...... 国家の基盤となっている、すべての事柄はカネがなければ成り立たない。

   今の日本は経済活動を自らの意思で縮小することで、これらを確実に蝕んでいっている。このような状況が今後さらに数週間、数か月も続くと、多くの民間企業が倒産し、経済危機が起きてしまうだろう。

   「命のためには仕方がないじゃないか」と、政府は言うかもしれない。それに対しては、あえてこう言おう。命よりカネのほうが大事だ。文化的な生活が送れないようなら、命に価値はない、と。

   そもそも、人と人との接触を減らしさえすれば新型コロナウイルスを抑制できる、という考えが誤りだ。隔離政策をとる狙いは、患者が短期間に集中的に発生することを避け、医療機関の負担を平準化するというところにある。

   隔離しているといずれ感染しないカラダになる、などということはなく、やめれば元に戻る。最終的には国民の半数を超えるような数の人が感染して、「集団免疫」の状態になるまで感染は止まらないだろう。

   それまでに有効なワクチンが使えるようになれば良いが、数か月や1年くらいではとても不可能だ。エボラ出血熱もSARS(重症急性呼吸器症候群)もMERS(中東呼吸器症候群)も、特異的なワクチンは未だに存在しない。

新型コロナの隔離政策、じつは最大の効能は......

   新型コロナウイルスによる地域での死者が、このところ日々あたり数人あるいは10人以上報告されている。憂慮すべき事態に違いないが、日本でさまざまな要因で日々平均3000人以上亡くなっていることを考えると、死因としてはなおマイナーなものだ。人口動態総覧のデータによると、2020年1~2月の死亡者数は前年より1万人以上も少ない。これはインフルエンザを始めとする感染症が減ったことが最大の要因と思われる。

   隔離政策の最大の効能は、じつは新型コロナウイルス以外の感染症の発生を抑えたことにある。

   人間には寿命があり、すべての人は死ぬ。病気や事故は死期を早めるが、世の中の資源は有限なので、すべての病気や事故から人を助けることはできない。

   たとえば交通事故を考えても、科学の進歩により死亡事故は着実に減少してきたが、交通事故を完全にゼロにすることはできていない。それをするには人が移動することを完全にストップするしかない。そんなことをしたら大混乱が起き、まともな社会生活を送れなくなることは明白だが、じつは今、コロナ対策で政府が我々に要求しているのはそういう類のことである。

   日本は今までのところコロナ禍を、うまくしのいできた。一億を超える国民が狭い所に密集して住み、高齢化比率が世界一で、独裁国家のような強権的な管理体制を敷くことができず、中国の隣にあり欧米諸国より早くからコロナが入ってきて...... という条件下でも、コロナによる死者・重症者数は累計で数百人の単位に抑えられている。数万人の死者を出している米国やイタリアやフランス、英国などとは対照的だ。

   日本でコロナの被害が、なぜこんなに少ないのか。その原因はよくわかっていないが、国民としては結果オーライであれば、理由はどうでもいい。

   一方で、コロナ対策のために経済が破たんしてはどうしようもない。自殺者の数は、失業者の数と相関があることが知られている。自殺者は2019年に約2万人であり、今年に入っても一日あたり数十人で推移している。つまりコロナの犠牲者より、自殺のほうが圧倒的に多いということであり、今後コロナ対策のために自殺者が増えていくと、本末転倒になってしまう。そして一人の自殺者のウラには、数多くの自殺予備軍がいることを忘れてはならない。

「隔離」は短期的な効果しかない

   新型コロナウイルスについては、これまでにかなりのことがわかってきた。致死率は1%よりもだいぶ低く、おそらくインフルエンザ並みであると考えられること、重症者は高齢者と高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある人に集中していて、若くて健康な人に対するリスクは非常に低いこと、今までに判明したのよりもはるかに多くの人が感染していると見られること、などだ。

   病気に打ち勝つことに異論などない。しかし、我々は未来に向かって生きていかねばならない。未来の人たちが、幸せに平和に豊かな生活をしていける環境をつくることが、年長者の責務だ。「若者の未来が、台なしになるようなことがあってはいけない」「子どもが十分な教育を受けられなくなるような状況だけは、絶対に避けてほしい」...... というのが、我々の世代が一致して望むところだと考えている。

   それを前提にすると、今後とるべき対策もおのずと見えてくる。基本的には、日本のようにコロナによる被害が非常に少なく抑えられている国では、活動の制限は最小限にとどめるべきだ。

   特に若い人にとってはコロナはインフルエンザよりもずっとリスクが小さいと見られるので、できるだけ普通に活動してもらい、学校は開校する。一方でリスクの高い高齢者や免疫力の弱い人には感染リスクを下げるような行動が望まれるが、やりすぎるとマイナスが大きくなるので、スウェーデンで行っているような緩い管理を参考に進めていくべきだと思う。

   繰り返すが、隔離は基本的に短期的な効果しかなく、最終的な感染者数・死亡者数を大きく減少させるものではない。このことを肝に銘じておく必要がある。

   今は「コロナ疲れ」が世界中を覆っている。そのため、イタリアやドイツやフランスのような深刻の事態に直面している国でさえ、徐々に規制を緩和していくことを発表している。その一方で、コロナの死亡者が遥かに少なく、4月中旬から患者数が低下してきている日本では、欧米以上の規制を続けていこうとしている。

   リーマン・ショックの時、日本は米国のサブプライム問題にもデリバティブにも深く関与しなかったため、直接的なダメージは小さかった。しかし、2次的なダメージを大きく受けてしまい、結局は甚大な被害を受けるに至った。

   新型コロナウイルスについても、せっかく直接的な被害は小さいのに、経済でこけてしまっては元も子もない。若い世代が明るい将来を築けることを最重要課題として政策を決定していってもらいたい。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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