安倍晋三首相による緊急事態宣言から3週間あまり。新型コロナウイルス感染拡大は終息のめどがつかず、全都道府県を対象にさらに1か月程度延長されることになった。安倍首相が2020年4月30日、記者団に明らかにした。
ネット上では「ぶち切れ」と言っていいほど、怒りの声が渦巻いている。「延長はやむを得ない」としても補償態勢が不十分で、経済的に追い込まれている人が非常に多いからだ。
また、どういう状況になったら非常事態宣言を解除するのか、明確な基準を説明しない姿勢も怒りを買っている。主要新聞の5月1日付の朝刊報道とネットの声を拾うと――。
日本医師会会長「来年の東京五輪もう難しいでしょう」
いったいいつまで緊急事態宣言の延長は続くのか――。新聞各紙とも「ほぼ1か月程度」という見方で一致している。読売新聞「緊急事態延長、首相が表明」は、より具体的に「5月末までの25日間とする案が軸となっている」としている。
では、解除の目安はどうなっているのか。同じく読売新聞によると、専門家会議のメンバーを務める日本医師会の釜萢聡(かまやち・さとし)常任理事は同紙の取材に、
「全国の新規感染者数が1日で計100人を切るということが、緊急事態宣言を解除する一つの目安になるのではないか」
と語った。
ちなみに4月30日(木)の国内の新規感染者は188人、その前日の4月29日は234人、4月28日は273人という流れだ。
朝日新聞「新規感染は減少、医療なお綱渡り」は「直近7日間の新規患者数の平均値をみても、ここ1週間は減少傾向に転じている」とちょっと明るくなりそうなデータを紹介している。
朝日新聞が試算で、累計感染者数が2倍になる日数を計算したところ、4月2~15日の2週間は7.7日だったが、16~29日は22.6日に伸びた。増加のスピードは鈍化しているというわけだ。
ただ、医療崩壊寸前の厳しさはさらに増しているとクギを刺し、国際医療福祉大学の和田耕治教授の、
「一番の問題は医療体制だ。地方を中心にまだまだ十分な病床やスタッフが確保できていない。いま解除すると、受け入れ体制を大幅に超える新規患者がでる恐れがある」
という意見を紹介している。
さらに厳しい見方をしているのが産経新聞と毎日新聞だ。産経新聞「経済再開めどたたず、自粛解除へ検査拡充必要」が指摘するのは、日本ではPCR検査が諸外国に比べて圧倒的に少なく、科学的な根拠をもって終息に向かっていると判断しにくいことをあげて、こう書いている。
「欧米はすでに経済活動の再開を模索しており、G7(先進7か国)財務相は4月30日の電話会議で新型コロナウイルス収束後の世界経済回復について協議した。日本はPCR検査の件数を抑えたことが、経済再開に不可欠な感染状況の全体像の把握を妨げており、外出自粛が長引く懸念がある。
多くの国がPCR検査を大量に実施するなか、日本は濃厚接触を重点的に検査する手法を選び、対人口比の検査件数はG7でも比較的少ないフランスや英国の7分の1程度にとどまる」
として、SMBC日興証券の末沢豪謙・金融財政アナリストの、こんな悲観的な見方を紹介しているのだ。
「科学的データがなければ経済活動の再開も、東京五輪を含むイベントの開催是非も判断できない。検査体制や感染者の受け皿となる医療提供体制の拡充を求める」
1か月後の緊急事態宣言解除どころか、来年の東京五輪の開催さえ危ぶまれるというのだ。ちなみに東京五輪開催の可能性については、日本医師会の横倉義武会長が4月28日に外国特派員協会のオンライン記者会見の場で、「事実上もう無理」という考えを示している。
TBSテレビ(2020年4月28日オンライン版)「日本医師会会長『ワクチンないと五輪開催難しい』」によると、横倉会長はこう述べたのだった。
「有効なワクチンが開発されないと、なかなかオリンピック開催は難しいのではないでしょうか。(ワクチンが開発されたとして)日本だけ良くなっても、海外で感染が拡大している状況では難しいでしょう。『すべきではない』というより、『難しいだろう』ということです」
医療崩壊を救う2倍以上の予算を旅行と外食クーポンに
このようにワクチンの開発も含め、医療体制の充実がコロナ終息にもっとも重要なのに、毎日新聞「コロナ1次補正成立 予算配分ちぐはぐ、医療向け少なく」は4月30日に成立した補正予算が、医療関係者への支援が不十分な内容になったと批判する。
「20年度補正予算は過去最大規模の約25.7兆円にのぼる。とはいえ事態が深刻化する前から各省庁が『過去の景気対策を参考に』(官庁幹部)準備を進めた案がそのまま残り、旅行、外食料金割引の『GoToキャンペーン』(約1.7兆円)など終息後の景気浮揚策が多く入った。このため、当座の医療、営業、生活支援が圧迫されるちぐはぐな内容になった。医療政策を担う厚生労働省の取り扱う分は7270億円で、全体の3%に過ぎない」
外出を自粛しようと呼び掛けている最中なのに、割引クーポンで旅行、外食を勧めるキャンペーンに医療関係の予算の2.3倍も使おうというのだ。
毎日新聞は、野村證券の美和卓チーフエコノミストの厳しいコメントを載せている。
「(予算の)事業規模を膨らませるため、経済活動の抑制策をとる中では効果がない事業にもかかわらず、あえて対策に入れ込んだとの批判はまぬがれない」
こうして、コロナで困窮する生活者への支援は置いてきぼりの予算になった。
産経新聞「『国の予算で学費半額に』学生団体、文科省に要請」は、家計が苦しくなったり、アルバイトができなくなったりして学費が払えなくなり、退学や休学を考えている学生が3割近くいると報じている。
国の予算で学費を半額にするよう求めるオンライン署名を始めた山岸麹香さんは、文科省副大臣に面会したが、「貸与型奨学金を一層周知する」という回答しか得られなかった。
山岸さんは産経新聞の取材に、
「アルバイトがいつ再開できるかもわからないなか、返せる見込みがない奨学金を借りるのは難しいです」
と語ったのだった。
「シングルマザーです。もう限界です」
さて、非常事態宣言の1か月延長、ネット上では怒りのあまりぶち切れ寸前の人が圧倒的だ。
「致し方ない。言うとおりに自粛します。長期戦に耐えてみせます」
という人はほとんどいない。大半の意見を代表する声はこれだ。
「長期戦はもはや避けられないとしても、5月一杯が限界だ。命も大事だが止まったままの経済も心配だ。このままでは、相当倒産しますよ。コロナの死者より自殺者のほうが多くなる。いい加減、『お願いします、お願いします』だけはやめてほしい。ちゃんと補償をしてほしい。いつまでに、どんな状況になったら非常事態宣言を解除するのか、安倍総理は延長を決める前に科学的な基準を国民に示してほしい」
「1児のシングルマザーです。もう限界です。職場は緊急事態宣言が解除されないと仕事が再開されません。休業保障6割だけど、全然足りません。子供は保育園登園自粛で、休園じゃないから保育料も日割り還付されません。このままでは保育料払えなくなり、退園させられます。そうなると仕事も退職しないといけません。どうしろというのですか。10万円の給付金1回きりじゃ破産する人、たくさんいますよね」
「飲食業です。1か月だというので耐えてきました。家賃やら従業員の補償やらで、月に数十万円以上が出ていきます。もう自粛協力をやめるという同業者が多いです。ちゃんとした補償もないのに、私だけ正直に協力するものもバカバカしい思いです」
そして、今回の事態を招いた安倍総理の指導力に対する疑問の声だ。
「同じ東アジアの、台湾や韓国が収束に向かっているのに、日本はなぜ?
(1) 中国の習近平の来日に忖度して、中国人の来日を制限しなかった。韓国も中国に忖度していたが、その分、徹底的にPCR検査をして感染者をあぶり出しにした。だが日本は『発症した人』とその周囲のみの検査にこだわりPCR検査をほとんどしなかった。
(2) 東京オリンピックの開催にこだわり、感染者数を明らかにしようとせず、潜在的感染者を野放しにした。結果、市中に感染者が拡大してしまった。
そしてやったことといえば、緊急事態宣言、マスク2枚の配布のみ。いまだに10万円の給付すらきていない。これはもう国民に対する犯罪的な行為といえます」
「お隣の韓国では、平常に戻るまでには2年間かかるとして2年間のガイドラインを発表した。一方、我が国は1週間先に迎える緊急事態宣言の期限の延長の発表さえ、最終日の2日前の5月4日になると言われている。その時、どのくらい先までのガイドラインを発表してくれるのだろうか」
「安倍総理はスピード感がまったくない。直前になっての延期は現場の大混乱を招くだけだ。各県の知事の方がスピード感あるよ。もう延期を見越して5月末まで休校を続々と決めているもの」
アメリカでは中流階級もホームレスに
また、もう全国民一律の自粛はやめて、必要な業種や健康な人を開放しして、徐々に経済活動の復活を目指すべきだという声が多かった。
「さらに1か月延長では、飲食業などサービス業のほとんどはもたない。ただ、経済死を待つような人々は黙っていないと思う。GWを過ぎたあたりから飲食店などは再開したほうがいいと思う」
「新型コロナは、若い人にも死亡者が出ているとはいえ、圧倒的多くは、65歳以上の高齢者です。59歳以下の死亡者数は全国で20数人だけと聞きます。65歳以上の人だけを外出自粛にして、若い人を経済に回してはいかがでしょうか。スウェーデンは国民全体に免疫力をつけさせるために、高齢者以外は自由に活動させているし、ブラジル大統領も『高齢者や病弱な人間は家にいろ、それ以外は経済を回せ』と言っています」
こうした意見に対してはアメリカ在住の人から、こんな冷や水を浴びせるような声が。
「アメリカの現状を見ても、日本での断続的な自粛は今年いっぱい確実にかかるでしょう。中小企業や個人企業は来月にはかなり倒産、失業者もかなり増えますね。アメリカの失業者は既に日本の何百倍です。今まで中流階級だった人々の多くも、家賃が払えずにホームレスとなっています。州によっては一部経済活動を再開していますが、まだ段階的です。今年いっぱい、収束まで確実にかかりますね。日本も同様の流れになるかなと思います」
(福田和郎)