新型コロナウイルスの影響で、外食や小売りは言うに及ばず、企業は予想もしなかった「不況」に見舞われている。しかし、コロナ禍が終息すれば、景気回復のときは必ずやってくる。企業にとっては、コロナ対策とその後をにらんだ両面作戦が必要だろう。
コロナで棚上げされている格好だが、近年は少子高齢化社会の進展で、企業の大きな課題の一つは「人材」の確保だ。本書「全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす『仕組み』を作る」は、人材を「人財」として、単なる働き手としてではなく、企業の財産として育てることにこそ活路があると説く。
「全員を戦力にする人財育成術 離職を防ぎ、成長をうながす『仕組み』を作る」(有本均著)ダイヤモンド社
ハンバーガー大学」「ユニクロ大学」を渡り歩く
「終身雇用」や「年功序列」の仕組みが時代に合わなくなったと指摘され、必要な仕事の担い手は中途採用で賄うことが当たり前のようになっている。本書の「人財育成術」は、それとは反対方向を目指しているといえるかもしれない。
著者の有本均さんは大学生のとき、日本マクドナルドでアルバイトとして働き、そのまま就職して24年間勤務した。店長、統括マネージャーを経験し、同社の教育責任者である「ハンバーガー大学」の学長を務めた。
その後の2003年、ファーストリテイリングの柳井正会長(当時)に招かれ、ユニクロの教育責任者である「ユニクロ大学」部長に就任。日本マクドナルドやユニクロなどで経験して得た「人財育成のノウハウ」を活かして2012年、教育・研修サービスを行う株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立した。
そんな有本さんが「人財育成」を強調するのは、時代のニーズを感じてのこと。「就職氷河期と言われた時代は過去のこと。今は、業種を問わず『企業が人を選ぶ時代』から『人が企業を選ぶ時代』になった。人を採れない企業は、『選ばれていない企業』であることを意味する。採用と定着に苦しむ企業の人は、そのことに気づく必要がある」
という。かつては「ダメな人」は入れ替えて陣容を整え、成長を果たしてきた企業も多く、数年前までそのやり方が通用したケースもあったが、いまではまったく通用しなくなった。
これからの企業は「どんな人でも辞めさせないで育てる」という覚悟を持たねばならぬと、著者は強調する。
覚悟といっても精神論ではない。方法論をもって人の育成に取り組む必要があるといい、本書ではその方法論が解説されている。きちんと教え、しっかり評価し、働く環境を整備することが大前提という。