2008年のリーマン・ショック以来、回復までに長い道のりを要した日本経済。新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、そのリーマン・ショック以来ともいわれ、すでに収束後のV字回復は難しいだろうともいわれる。
本書「なぜ、それでも会社は変われないのか 危機を突破する最強の『経営チーム』」は、そもそも日本の企業は何ごとにも対応が遅く、リーマンやコロナのように世界を急変させる出来事が次々に起きる時代の「仕様」になっていないと指摘する。新時代に向けた変革、転換を提案する一冊だ。
「なぜ、それでも会社は変われないのか 危機を突破する最強の『経営チーム』」(柴田昌治著)日本経済新聞出版
日本企業の組織風土を問題視する
著者の柴田昌治さんは企業の体質改善を手がけるコンサルタント。1979年に東京大学大学院教育学研究科博士課程を修了したが、その前の大学院在学中にドイツ語学院を起業。その後、ビジネス教育の会社を設立した。1986年、企業の風土・体質改革を専門に行なう会社スコラ・コンサルトを設立。その業務で、改革の現場にいたことから、日本の企業は建前優先の機械的組織になっていると感じていた。
そうした体質の企業では、社内で連綿と続く建前主義に社員の思考と行動が縛られるもの。柴田さんは、その拘束を緩和し、創造性の発揮を促して組織を進化させる方法論(プロセスデザイン)を具体化させた。
企業改革についての著書も多く、「トヨタ式最強の経営」や、いすゞ自動車の改革について書いた「どうやって社員が会社を変えたのか」(いずれも共著、日本経済新聞出版社)などが知られる。
本書でも指摘の的になっているのは、日本企業の組織風土。「調整の文化」を指摘。結論までの根回しに時間がかかり、臨機応変が求められる今の時代には、とても向いていないというわけだ。さらには、企業に限ったことではなく、日本の組織の特徴は「予定調和」。話し合いは、ブレインストーミングのように何か新しいものを生み出すことが目的ではなく、たいていは結論ありきで、前例を踏襲しながら、見えているゴールに進んでいくのが常という。
カギは「役員」! 実話に基づくから説得力がある
これが企業の安定を支える根本の文化。本書では、文化は文化でも「負の文化」であると指摘。「調整文化」によって、先進国として異常に低い生産性を招き、意思決定と実行にブレーキがかかり、また新たな試みが生まれてこない――というマイナス作用のメカニズムを解説。その「負の文化」をどうやって変えていけばいいかを、架空の東証1部上場企業「東洋精電」を舞台に描いている。
「調整文化」の構造を詳しくみたあと、それを打開するためのカギとして描いているのは「役員」という、意外な? 展開。「役員のチーム化」が現場の働き方を変え、変化対応力を育む「挑戦文化」の組織に変わるための重要な要素であることを明らかにする。「役員のチーム化」など、およそ現実的ではない感じだが、その手法は実話に基づいたものという。
東洋精電の社長は、縮小していく市場に会社存亡の将来不安を抱えている。しかし、役員たちは自分の担当部門で成果を出すことにしか関心がない。社長は役員たちに物足りなさを感じ、コンサルタントに「役員のチーム化」の支援を依頼する。「チーム化」した役員らは、社長の出身事業を閉じるというタブーに挑戦することで一丸となる......。
「なぜ、それでも会社は変われないのか 危機を突破する最強の『経営チーム』」
柴田昌治著
日本経済新聞出版
税別1600円