年金改革法は「高齢者が長く働かざるを得なくなる」仕組み
もう一つの柱である「在職老齢年金」は、年金を受け取りながら仕事をして収入を得ている人の場合、65歳以上で月収が47万円、60~64歳なら月28万円を超えると年金支給額が減額される制度の見直しだ。
現在、在職老齢年金制度により約108万人の年金が減額され、約9000億円の年金給付が止められている。
今回の改正では60~64歳の上限額が月収47万円まで基準が引き上げられる。理由は、高齢者の労働意欲を高めるためだ。だが、現実的に月収47万円を得ている定年退職者は、どれぐらい存在するのか。
つまり、今回の年金関連法案は、年金制度が改善され受給額が増加しているように見せかけながらも、実態面では「高齢者がなるべく長く働かざるを得ない仕組み」を作ったものでしかない。
実際、3月31日には70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法など一連の改正法が参院本会議で可決、成立した。2021年4月から適用し、企業は希望する高齢者が70歳まで働ける措置を講じるよう求められることになる。
さて、現状に鑑みて、新型コロナウイルスの感染拡大で雇用は非常に不安定になっている。
倒産や廃業、休業に追い込まれる企業が相次いでいる。これに伴い、正社員・非正規社員の解雇、新卒の内定取り消し、派遣社員の雇止め、パート・アルバイトの削減などが発生している。こうした状況下で、高齢者の再雇用は人員調整のターゲットになりやすい。
厚生労働省が今、行わなければならないのは年金関連法の改正ではなく、雇用を維持できる施策を打ち出すことだ。
実際、厚労省内部からは「新型コロナウイルス対策に全力を注がなければならない時期で、人手が足りないなか、なぜ年金改革なのか」との声も聞かれる。
政府は年金関連法の今国会での成立を目指しているが、政治が今やるべきことは新型コロナウイルス対策のひと言に尽きる。「3密」の委員会室や議事会場に集まり、愚の骨頂のような審議をするのではなく、議員一人ひとりが「国民の命を守る」ことを真摯に考えてほしい。(鷲尾香一)