新型コロナウイルスの感染拡大で、働いている人の2人に1人が「働き方」に何らかの変化があったと答えていたことが、第一生命経済研究所の調査でわかった。「特に変化はない」は51.2%だった。調査は4月7日の緊急事態宣言の直前に実施。15日と24日に発表した。
在宅勤務は、これまでも働き方改革の中で時間や場所にとらわれない柔軟な働き方として注目されてきた。この3月以降は、感染症対策として社会的に要請される働き方になっている。
その一方で、緊急事態宣言の発令後、政府が人と人との接触を7~8割削減することを目標に定めたことで、在宅勤務はますます求められるようになった。ただ、第一生命経済研究所ライフデザイン研究部の的場康子・主席研究員は、「未だ十分に進んでいるとは言えない状況にある」とみている。
テレワークが可能な人は4割が実施している
調査によると、新型コロナウイルス感染拡大で「働き方に何らかの影響を受けている」と答えた人のうち、「会議や出張を見送った」が17.6%で最も多く、次に「社員教育のための集合型のセミナーや研修が中止になった」の11.4%が続いた。
「3密」(密閉、密集、密接)を避ける行動として、会議やセミナーの中止・延期を経験したという人が多く、第3位が9.4%で「(自宅で)テレワークをするようになった/することが増えた」だった。在宅勤務は「3密」を避ける働き方としても注目を集めているが、実際には、在宅勤務の人は働く人全体の1割程度でしかない。
ただし、すべての仕事でテレワークが可能というわけではない。実際にテレワークが可能な仕事に就いている人の中で分析すると、「(自宅で)テレワークをするようになった/することが増えた」と答えた人は約4割だった。
在宅勤務を含めてテレワークの経験者を正社員の規模別でみると、規模が小さいほどテレワーク経験者の割合が低く、「テレワークができない業務である」への回答割合が高い。また、テレワークができる業務である人の中で、実際にテレワークをおこなったことがある人の割合も低いという傾向がみられる。規模が小さい企業ほど、テレワークの準備が整っていないことが、在宅勤務一ができない理由の一つであると考えられる=下表を参照。
仕事量や労働時間増え、収入は減った......
人々の仕事や働く意識に、どのような変化があったのかを聞くと、全体的に「どちらともいえない」が多く、新型コロナウイルスによる人々の仕事や働く意識への影響は、政府の「緊急事態宣言」の直前の時点では、限定的だった。
とはいえ、仕事量や労働時間をみると、「増えた」人よりも「減った」人のほうが上回っており、20.6%の人が「収入が減った」と答えた=下図参照(「Aに近い」と「どちらかといえばAに近い」の合計)。
また、「仕事のストレスが増えた」と答えた人は、32.2%にのぼる。これは「仕事がはかどらなかった」「職場の人とのコミュニケーションが減った」「仕事に集中できない」など、それぞれ反対の意見項目を上回っており、なんとなく思うように仕事が進まないと思っている人が多いこととも関連しているとみている。
さらに、「会社の指示(拘束力)が強まった」「労働時間の管理が厳しくなった」と答えた人も、それぞれ反対意見を上回っている。ライフデザイン研究部の的場康子さんは、「会社の管理のあり方が問われています」と、指摘する。
3割の人が「自分の仕事や勤め先の将来像が描けない」
「今後の働き方がどのように変わるのか」との問いをみると、「自分の仕事や勤め先の将来像が描けない」と答えた人が37.6%(「あてはまる」の11.4%と「どちらかといえばあてはまる」の26.2%の合計)と目立った。
また、「勤め先が実施する社員教育のための集合型のセミナーや研修が減る」も37.6%(「あてはまる」の12.9%と「どちらかといえばあてはまる」の24.7%の合計)だった。今回のコロナ禍を機会に、オンライン講座の普及など企業の人材育成のあり方が変わることも見込まれる。
「勤務時間を柔軟に選べるようになる」(30%)や「テレワーク(在宅勤務)をしやすくなる」(27.5%)、「家庭や趣味などと両立して働きやすくなる」(25.8%)といった、ゆとりのある働き方への変化を期待する意見も一定程度みられた。
ライフデザイン研究部の的場康子さんは、
「新型コロナウイルス感染拡大による働き方の変化で危惧されることは、企業間格差の広がりです。感染拡大予防策として在宅勤務などの体制を整え、それを生産性の向上につなげて事業を継続することができる企業と、そうでない企業との差は今後広がる恐れがあります。
これを避けるため、今後、在宅勤務への支援はもとより、感染拡大が続く厳しい状況下で企業が必要とするさまざまな支援を、企業規模にかかわらず、きめ細かく適切に提供することが求められるでしょう」
と話している。