東京都の小池百合子知事が2020年4月23日、記者会見を開いて「スーパーなどへの買い物は3日に1度に控えていただきたい」と呼びかけた。
外出自粛要請の影響で、買い物が一種のストレス解消となり、スーパーや商店街が子連れや高齢者のたまり場となってクラスター化の恐れが高まっているからだ。「医療崩壊」と同時に「スーパー崩壊」の危機が迫っているのか――。
ネット上では、小池都知事の混雑緩和策の提案に賛成の声が圧倒的に多い。一方では修羅場と化して、それこそ「命がけ」で働いているスーパー店員の生々しい訴えも紹介する。
「小池さんは賛否のある問題にわれ先に動く」
小池都知事はほかにも、利用客に「食料品などを必要以上に買いだめしないでほしい」とも訴えた。 また、スーパーなどの店側には、混雑緩和の取り組みとして、
(1)ホームページなどで混雑しない時間帯の発信
(2)高齢者や障害者、妊婦らの専用の買い物時間帯の設定
(3)品出し時間帯を工夫するなど、開店時の行列誘発の回避
(4)買い物かご数を制限による入店の抑制
(5)イートインスペースの中止
など、かなり細かい要請を行った。
今回の小池都知事の呼びかけに関して、たとえばヤフーニュースが「みんなの意見」コーナーで「スーパーの入場制限をするべき?」とアンケート投票を行ったところ、2020年4月24日16時10分の時点(1万7740票)で、「規制するべき」(77%)、「規制すべきではない」(23%)と、賛成が多かった。
ネット上では賛成の声が圧倒的だった。それは、
「小池さんは信頼できるリーダーだ。こういう賛否あるものにわれ先に動く。休業要請も夜の繁華街への指定もそうだった。国のほうが後に来た。最初に動く人には批判がくるけど、先頭に立ってやってくれるから、大阪府や北海道もやりやすくなると思う」
という意見が非常に多いからだ。
もちろん、今回の「スーパーへの買い物は3日に1度に」という呼びかけにもごく一部だが、反対論がある。こんな意見に代表される。
「生活困窮者の中には自宅の冷蔵庫が小さく、備蓄する余裕がない世帯も多くいる。大きな冷蔵庫があれば、3日に1回程度で買い出しも済むかもしれないが、毎日買い出しに行かなければならない世帯も東京には多い」
「体力もクルマもない年寄りは、3日に1度のまとめ買いなど、重くて持ち運べないから無理でしょう。うちも食べ盛りの子が3人。学校休校だから家で3食食べる。1日に2回も買い物に行くくらい」
こんな案配だが、さっそく賛成派から、こんなツッコミが入った。
「小池知事の呼びかけは努力目標ととらえればいいことなので、ヤンヤいうこともないと思います。私の家のように余裕のある家は5日に1度にすればいい話。全体で3日に1度くらいでいいのでは」
「家の前が小さめのスーパーなので、冷蔵庫かわりに日に2回も行っていた。4人家族で、つい料理していても牛乳がないとかゴマがないとかで、買い足しに行っていたけど、なくてもいい物は我慢すればいいよね。3日前に全部のメニューを決めればいい。生活を改めよう。努力してみよう」
と、これを機会に3日に1度の買い物に挑戦しようという声が多かった。
店員のビニール手袋に「客をバイ菌扱いするのか!」
それというのも、各地のスーパーがあまりに混雑しており、クラスター化寸前の状態だという認識が広まっていることがあげられる。特に店員たちが悲鳴を上げている。
遊び場のつもりで子連れの客が増える一方、ストレス発散のために店員に当たるクレーマー客が横行し、店員たちは疲弊しきっているのだ。
「現場で働く者です。巣ごもり需要で売り上げが上がり、納品品出し量が増えて現場はもう限界です。アルバイトがどんどん辞めていき、人手が足りません。スーパー本部からも大勢の社員が現場に応援に出ています。家族で買い出しに来る人が増え、店内はいつ感染してもおかしくない状態です。夫婦で赤ちゃんを連れて来る人もいます。赤ちゃんはマスクもできません。その場合どちらかが車や家で待機していてほしいです」
「クラスターが発生した街のスーパーに勤めています。マスクを顎まで下げて『◯◯はどこにあるの?』と大声出す人や、指ペロで現金を出す人、咳エチケット無視のノーガードで咳ゴホゴホする人、店内で走り回る子どもたち...。どう考えても感染リスクだらけです。もしこの中ウイルス感染者がいたら?...と思うと心底ゾッとします。『危険手当』がほしいとさえ思います」
こうした恐怖に加えて、店員の気持ちを落ち込ませるのはクレーマーたちだ。
「在宅ストレスを吐き出しに来る人が多いです。レジで商品をカゴからカゴに移す作業で、卵など割れやすいものは一番上に載せないといけないのでレジ台に置くと、『レジ台に置くな、馬鹿野郎!』と怒鳴られました」
「レジでお客様に『マスクはないのか?』と聞かれ、『ございません』と答えると、『お前がつけているマスクを売れ!店のどこかに在庫を隠しているんだろう』と怒鳴られました」
「レジの天井からぶら下がっている飛沫防止シートにお客様からクレームが入りました。『あんたらは守られているからいいよな!客側は汚染されているわ!』と...」
「ウチは、私たちがはめているビニール手袋にクレームが入りました。『客をバイ菌扱いするのか!』と。お互いの身を守るためです。ご理解ください...と申し上げたのですが」
「昨日、レジに並ぶ最後尾の若い男性のお客様が、携帯をずーっと見ていて前に進まないので、『恐れ入りますが、一歩進んでいただけないでしょうか?』とお願いしたら、無言のままでした。しばらくしたら本社にクレームが入り、私は悪くないのに注意されてしまいました」
「現場はパンク寸前だが、スーパー本社は稼ぎどころとウホウホ」
「スーパーの店長職をしています。先日、『なぜ袋を2重にしないんだ!』というお叱りをレジ担当者が受けました。お客様は10分以上も私たちに苦情を言われておりましたが、そこで感染するリスクは考えないのでしょうか? 見かねた別のお客様が『お店を開けてもらっているだけ感謝しなさいよ!』と言っていただきその場は収まりました」
この投稿には、さすがにこんな声が殺到した。
「あなたも店長なら毅然とした対応をしなさい! なぜ警察を呼ばないのですか! 立派な威力業務妨害罪です」
「鉄道会社が駅に貼り出している『駅員への暴力行為の禁止』ポスターのような『店員への暴言・暴力行為禁止』ポスターを、スーパー各社が連合で作ってレジに貼り出すべきだよ。店員を守れないような会社はアウトだ」
もっともスーパー側も、かならずしも「被害者」の立場とは言い切れない面がある。コロナウイルス騒ぎで売り上げが急激に伸びているからだ。何人かの店員や店長がこう明かす。
「店員です。せめて『緊急事態宣言下での営業』であることを館内放送で流してお客様にソーシャル・ディスタンスを訴えるとか、警鐘を鳴らしてほしいのですが、これまでどおりのイチオシ商品の宣伝や、BGMもアップテンポの(購買意欲をかき立てる)ノリのよいものを流しています。(時節柄中止と言いながら)ポイント増量キャンペーンもやっているし、見かけ上は全く平常時と変わりありません。『地域のインフラの役目を全うすべく...』と聞こえはいいですが、実は他店を出し抜いてガッチリお客様のハートをつかもうと息巻いているのは店長の目を見ればわかることで...」
「店長職をしています。店はコロナ特需で売り上げは昨年対比130%~150%で推移しています。現場の人間は家に帰ることもままならず、パンク寸前です。反対に本部はウホウホで、『稼ぎどころだ!欠品ないようにもっと攻めろ!』と指示してきます。店長の私が閉店後に日付が変わる頃まで籠やカートの消毒をしています」
「欧米のチップのように、コロナ・チップ100円をとれば?」
ところで、小池都知事の「買い物は3日に1度」の提案、海外在住者から見たら「まだまだ甘い」という指摘がある。こんなアドバイスの声が。
「シンガポールは国民全員にID番号があるので、特に人が多いマーケットには、ID番号末尾が偶数の人は偶数日、奇数の人は奇数日に行く、と実施しています、となりました。マイナンバー制度が完全になされていたなら、日本でも可能だったのですがね。誕生日の末尾の番号とか、なんとかならないですかね」
「フランスにいます。スーパーの入り口では警備員が立っていて、強制的に手に消毒液をかけてくれるので安心です。日本でもできないでしょうか」
「アメリカのウオールマートでは係員が入り口にいて、一度に入店できる客数を制限しています。20人が出たら次の20人が入ります。店の客が増えたら『少々お待ちください』という看板を表に出します。日本でそれをやっていないというのが不思議だ」
また、日本の住人からもこんな提案が。
「スーパーはこの際、もっと強気でいいのでは。欧米のチップのように、コロナ禍の最中に命がけのサービスをしているのだから、入り口で1人100円のコロナ・チップを徴収すれば、家族総出の買い物や毎日の買い物が減るんじゃないかな」
最後にスーパー店員の、こんな声を紹介したい。
「買い物でレジに並ぶたびに『大変な時にありがとうございます』と伝えたいという投稿がありました。今はお気持ちだけで結構ですよ。言葉をかわすだけで感染のリスクが高まりますし、レジの列が長くなってほかのお客様から苦情が出ますから。お気持ちだけでうれしいですよ」
(福田和郎)