2019年10月に、厚生労働省が全国1652の公立・公的病院について、再編・統合が必要として病院名を公表したという記事を覚えている読者もいるだろう。
参考リンク:「あなたの近所、あなたが通院する病院がなくなるかも? 置き去りにされる地域住民......」(J-CASTニュース 会社ウォッチ2019年10月1日付)
じつは、新型コロナウイルスの感染患者数が急激に増加し、病床数の不足が深刻化しているにも関わらず、未だに病床数減少のための公立・公的病院の再編・統合方針は変更されていない。
感染者3000人超の東京都で10病院が再編・統合の対象
2025年に必要な入院ベッド数は、少子高齢化などの影響で、集中的な医療が必要な「急性期」病床が過剰となり、リハビリや在宅医療につなげる「回復期」病床の需要が増加するとの予測から、今より5万床ほど少ない119万床と推計されている。
これに基づき、政府は団塊の世代の全員が75歳以上になる2025年度に必要なベッド数などを定めた「地域医療構想」の検討を進めている。
その具体化のために、厚生労働省は診療実績が少なく、非効率な医療を実施している病院を洗い出すため、重症患者向けの「高度急性期」、一般的な手術をする「急性期」に対応できる全国1652の公立・公的病院のうち、人口100万人以上の区域に位置する病院などを除いた1455病院の診療実績をもとに診療状況を分析した。
この結果、高度な医療の診療実績が少ない病院や近隣に機能を代替できる民間病院がある病院を「再編・統合について特に議論が必要」と位置付け、424病院(公立257か所、公的167か所)が、その議論の対象となる病院として2019年9月26日、厚労省が病院名を公表した。
厚労省では地域の特性も鑑み、今回の分析結果を自治体に通知。都道府県が設ける会議などで再編や統合を議論して、2020年9月末までに結論を出すよう求め、再編や統合を2025年までに終えるように要請していた。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、こうした政府から「不要」とされた病院が大きな役割を担っていることは間違いない。実際、感染者数が3000人(4月20日現在3082人)を超えた東京都でも、国家公務員共済連九段坂、東京都台東区立台東、済生会支部東京都済生会中央、東京大学医科学研究所付属、東京都済生会向島、地域医療機能推進機構東京城東などの10病院が、再編・統合の対象となっている。
日本が感染症対策を軽視してきたツケ
安倍晋三首相は新型コロナウイルス感染者の病床数について、「2万5000以上の病床を確保している」と国会などで答弁しており、5万床に増加させると宣言している。
しかし、東京新聞の調査では、病床数は1万1000床でしかないと報道している。同紙によると、政府は新型コロナウイルス用の病床ではない一般的な空きベッドも、すべて新型コロナウイルス感染者の病床数としたうえで、2倍以上も水増ししていると指摘している。
そのうえ、感染症病床は1998年に9060床あったが1869床まで減らされている。この点を見ても、日本がいかに感染症対策を軽視していたか、がわかる。それは、国立感染症研究所(NIID)の予算が大幅に削減されていたことでも明らかだ。
2019年4月9日の参院内閣委員会で共産党の田村智子議員は、国家公務員の定数削減により、「予算が10年前の水準から約20億円、3分の1も減少した」と指摘。また、人員については2013年度には312人の研究員が在籍していたが、2019年度は306人に減らされていることも明らかにしている。
前述のように、公立病院などの再編・統合問題は2020年9月末までに結論を出すことになっており、具体的に再編・統合に動いている病院はまだない。
とはいえ、厚労所は政策の変更を行っていない。コロナ禍でそれどころではないのかもしれないが、放ったらかしているとすれば、もっと悪い。だとすれば、公立・公的病院の再編・統合に象徴されるように、政府は新型コロナウイルスの感染拡大に対して後手を踏んだだけではなく、その失策に対しても反省することもないのだ。(鷲尾香一)