新型コロナウィルスの感染が欧米にも広がり始めた2020年2月末以来、外国為替市場は大混乱でした。
ドル円相場では、1ドル=112円台から一気に101円18銭前後まで急落。しかし、そこからドルはV字を描くように急反発して111円71銭前後まで上昇。そして再びドルは軟化して、現状は107円台前半です。
このジェットコースターのような上がったり下がったりで、多くのトレーダーは本当に惑わされました。
株価下落なのにドル上昇のワケは......
ドル円相場が下落したことは理解できます。株式市場が急落し、FRB(米連邦準備制度理事会)は大きく金融緩和を進めると思われたからです。実際、FRBは3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)を待たずに、2回利下げしたのでした。
しかし、ドル円は3月9日に1ドル=101円18銭を付けたのを境に、10円以上高騰しました。なぜ、これほどドルは上昇したのでしょうか――。
それは株価が急落したことで、金融市場は「危機モード」に入り、決済通貨としてのドルを確保したい動きが強まったからと言えます。
いくつかに理由を分けるとすると、
(1)ドル円をショートにしていたヘッジファンドが株価急落故にポジション縮小を迫られた。
(2)金融危機時にはどうしてもドルが必要となるため、各企業・銀行はドルの調達を一気に進め、その影響で短期金融市場は1.5~3.0%へとドル金利が上昇した。
(3)原油価格の急落でメキシコペソが狙い撃ちされ、メキシコ中銀は市場介入(ドル売りペソ買い)をしてペソを支えました。その結果、外貨準備に占めるドルの割合が小さくなるため、市場でユーロ売りドル買い、円売りドル買いと言ったオペレーションをせざるを得なくなったこと。
(4)最も大きな理由として、不要になった為替ヘッジの買い戻しがあります。
海外投資家で米国株に投資している人の中には、為替ヘッジをして参加している人もいます。今、急激な急落により、米国株の時価総額全体が急激に減少しました。それゆえ、従来まで「10」必要だった為替ヘッジが、今では「7」しか必要でなくなり、そのため消えた3割分の買い戻しが迫られました。
要するに、緊急を要する局面であったから、ドルを買ったまでです。
国債の大量発行を支える「ドラえもん」と化す中央銀行
現在の短期マーケットは、「株価が上昇=ドル上昇」だったのですが、今では「株価上昇=ドル下落」という構図になっています。こうした状況は変わるのでしょうか――。
おそらく、変わります。緊急にドルが必要であった時代は終わろうとしています。
過去数か月、あまりにも市場動乱が続いたために、エコノミストの方々も疲れ、冷静な判断ができなくなってきています。この1~2か月、最も積極的に金融緩和を実施したのは米国です。2度にわたり金利を下げ、その水準はゼロ金利まで下がっています。事実上、無制限の量的緩和政策も始めました。
特に驚かされたのは、FRBの4月9日の政策変更です。市場安定のため、FRBは企業の社債を買うのですが、ジャンクボンド(債権が回収できる可能性が低い債券)まで買い支えると発表しました。ジャンクボンドまで資産として買い入れるとなると、ドルへの信任が揺らぐのではないかと感じさせます。
この先、コロナ対策として、各国は大盤振る舞いします。それゆえ、国債を通常よりかなり多く出しますが、長期金利は微動だにしません。
中央銀行が買うから、金利は落ちないと市場は考えます。しかし、中央銀行はドラえもんのポケットではありません。無限に買って本当にいいのでしょうか。こうした行為は、最終的にドルに影響を及ぼしてくると思います。
ドルの長期下落のスタート地点にいるのかもしれません。(志摩力男)