ハンコ業界の代弁者がデジタル化推進のIT担当相とは......
これはいったいどういうことか――。2019年9月に発足した第4次安倍内閣で初入閣を果たし、IT担当大臣に就任した竹本直一氏のことだ。
竹本直一氏は「日本の印章制度・文化を守る議員連盟」(通称:ハンコ議連)の会長を務めている。「ハンコ議連」には逢沢一郎氏、石原伸晃氏、竹下亘氏、額賀福志郎氏、船田元氏などの自民党派閥領袖クラスの大物ら30余人が名を連ねている。
じつは、政府は「ハンコ文化」の撤廃を進めていた。2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、行政サービスの100%デジタル化に向けた「デジタルファースト法」の成立を目指すとされた。
デジタルファースト法は2019年3月に成立したが、一番大事な部分が骨抜きにされた。法案には当初、法人の設立などに必要な印鑑の届け出義務をなくす案が盛り込まれていたが、印鑑業界などの猛反発を受け見送られたのだ。「ハンコ議連」は、その急先鋒と言われた。安倍首相は、その代表者をこともあろうIT担当大臣に任命したのだった。
当然、竹本直一氏の就任記者会見では、記者団から「ハンコ文化」の維持者としての立場と、「ハンコレスのデジタル化」を推進する政府の責任者としての立場をどうするのか、厳しい質問が集中した。
朝日新聞(2019年9月13日付)「IT相はハンコ議連会長『印鑑とデジタル、対立せず』」は、こう書いている。
「日本の商慣行に欠かせない印鑑と、押印のいらないデジタル決済は両立するのか――。竹本氏は双方の立場は『ベクトルが反対方向では?』と記者から質問された。竹本氏は『印鑑とデジタル社会を対立するものととらえるのではない。工夫はいろいろできる』と反論。『印鑑を業とする人たちにとっては、死活問題だから待ってくれという話になっている』と述べ、議連会長としての立場を強くにじませた」
そして現在、「ハンコ文化」の解消が進まないことがテレワークの妨げになっていることへの責任を改めて記者団に問われた。朝日新聞(2020年4月14日付オンライン版)「IT相『しょせんは民間の話』ハンコのデジタル化」によると、こう答えたのだった。
「竹本直一IT相は14日の記者会見で、日本のハンコ文化がテレワークの妨げになっているとの指摘について、『民・民の取引で支障になっているケースが多い』との認識を示した。ただ具体的な対応策については『民間で話し合ってもらうしかない。しょせんは民・民の話だ』と述べるにとどめた」
こういう人物をIT担当大臣に任命した責任を、安倍首相はどう感じているのだろうか。
(福田和郎)