雇用調整助成金の特例措置はなんのため?
さらに、もし法的にも問題がなく、解雇が認められるのであれば、このタクシー会社をマネて、解雇に踏み切る会社が今後増える可能性がある。心配はないのだろうか――。
労働基準法第26条では、会社都合の休業には賃金の6割以上の手当てを労働者に支払う必要がありますが、企業にとっても不可抗力の事態で休業がやむを得ないと考えた場合、休業手当の支払い義務はなくなります。
現時点では、厚生労働省として今回の「緊急事態宣言」が「不可抗力の事態」であるというようなことを定義してはいませんが、今回の「緊急事態宣言」における状況についても、「不可抗力」に該当すると考えることもできます。
このように考えるのであれば、たしかに1円も受け取れない休業補償よりは、失業給付のほうがいいという考え方も成り立ちます。しかし、従業員に休業を命じて1円も支払わないという判断が、経営者の判断として経営上、倫理上正しいものかという点は議論の余地があると考えます。
現在、厚労省は雇用調整助成金の特例措置を行っています。新型コロナウイルスによって事業の休止や縮小などを余儀なくされた事業主が、従業員の雇用を維持させるために休業手当を支払った場合、その費用を助成するという制度です。
条件は複数ありますが、この制度を使えば、中小企業であれば休業手当の負担額の9割、大企業でも7割5分の助成を得ることができます。また、緊急経済対策で業績が悪化している中小企業などの支援策として、無利子の融資の枠が拡大されたほか、返済の必要のない最大200万円給付金が支給されます。
もちろん、タクシー会社の経営者の方は、苦渋の決断として今回の判断をされたのだとは思いますが、こういった制度をしっかり使って、最大限の経営努力を行ったうえでの判断だったのでしょうか。
いずれ再雇用を考えるというのであれば、労働者の心情に関しても最大限注意を払うべきであると考えます。
経営者、労働者の経済的側面は大変重要ですが、新型コロナウイルスの影響が収まったあとに、労働者とより良い関係を維持するという側面からも、慎重に考えるべきではなかったかと思います。(森脇慎也)
参考リンク ハローワーク・インターネットサービス
◆ 今週の当番弁護士 プロフィール
森脇 慎也(もりわき・しんや)
弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。
同志社大学法学部卒業後、大阪大学法科大学院修了。得意分野は「インターネット問題」「離婚・男女問題」「労働問題」「不動産・建築」「詐欺被害・消費者被害」など。趣味は旅行、人と話すこと。特技はゲートボール。