「社員間格差」はあって当然だ! そんな答えを導き出した産業医の経営コンサルタントの提案

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   社会の複雑化などで産業界もさまざまな変化に見舞われている。なかでも会社組織の課題は、現代特有の事情がからみ、過去の事例からの処方箋に乏しく、頭を抱える経営者や総務・人事担当者が少なくない。

   本書「『辞める人・ぶら下がる人・潰れる人』さて、どうする? 」は、医師でありMBA(経営学修士)でもある経営コンサルタントの著者が、独特のアプローチによる組織健全化・活性化を提案する一冊。

「『辞める人・ぶら下がる人・潰れる人』さて、どうする? 」(上村紀夫著)クロスメディア・パブリッシング
  • 企業は、社員それぞれの労働価値が異なることを考えて施策を練るべき
    企業は、社員それぞれの労働価値が異なることを考えて施策を練るべき
  • 企業は、社員それぞれの労働価値が異なることを考えて施策を練るべき

「多くの組織が病んでいる」

   著者の上村紀夫さんは産業医を務めているが、勤務医を経験した後にロンドン大学でMBAを取得した異色の経歴の持ち主。いまでは、二つのキャリアのコンビネーションで、産業医を兼ねる経営コンサルタントとして活躍している。

   MBA取得から1年後の2009年に、コンサルティングファームを設立して代表取締役に就いており、経営者としての顔も併せ持つ。産業医、そして経営コンサルタントとして、会社に託して目指すものは「従業員にも事業所にも『いて良かった』と思ってもらえる産業医サービス」の提供という。

   そんな上村さんは、「多くの組織が病んでいる」ことに気づいた。「その病は時代の変化とともに、ここ数年で複雑さを増しており、ただ単に『何か施策を打ったらすぐに解決する』といったシンプルな話ではなくなってきている」と指摘。その原因と対策を広く知ってもらおうと、本書に託した。

   多くの企業が患う病の症状は「社員・チームの生産性やモチベーションの低下」や「職場の雰囲気の悪さ」、「採用の苦戦」に「離職」など。上村さんはこれまで、1000を超える企業を顧客として、この病と格闘。格闘の件数は数千にのぼり、そのいずれで症状の元となっている「病巣」を特定、取り除くオペレーションを行ってきた。

   そうした活動の中で上村さんが気づいたのは、病巣を作り出す原因はほとんど共通しているということ。それは「マイナス感情の蓄積」であり、マイナス感情とは「不満や不公平感」であること。

   「企業の内部で、不満や不公平感があることは当然」とするのが大勢で、それらが生まれるメカニズムが詳しく理解されておらず、管理できないことが問題という。

「マイナス感情の蓄積」が問題

   マイナス感情の発生は、会社側が「従業員のため」に行う施策でも起こりうる。次のような例が考えられる。

・残業時間削減の取り組みで現場から不平不満
・フレックス制度導入で、社員の士気低下
・結果を出した社員をマネジャーにしたら離職した
・ワンオンワン面談導入したが、効果がなく管理職の負担だけ増した

   会社側が「良かれ」と思って採り入れた施策が、現場サイドの社員にとっては好ましいものではなくネガティブな結果を招いたケースだ。だが、結果がよくなかったというだけでは済まず、社員間には「会社はわかっていない」という考えが生まれ、時を追って社員間に「マイナスの感情」が増幅し、病巣が形作られるという成り行きだ。

   会社は、従業員視点で進められている働き方改革なども含めて、「従業員のため」だけではなく、広い視野・多くの視点で戦略を考える必要がある。

   本書では、「マイナス感情はなぜ発生するのか」から説き起こして、「マイナス感情の発症メカニズム」から「マイナス感情の伝染メカニズム」を解説。これらの中で「誰かにとってのプラス感情は、別の人にマイナスになりうる」ことなど、問題の複雑さを述べたうえで、マイナス感情の蓄積が原因である病巣の排除に最も効率的な方法として「ターゲティング戦略」を提案する。

「労働価値が異なる社員全員の幸福は不可能」

   「ターゲティング戦略」の内容は、「対応すべきターゲットを絞ることで、効率よく組織課題を解決する方法」。会社の施策が社員のマイナス感情を導いてしまうのは、会社が全社員を対象とした施策を行おうと考え、また「手段」ばかりに気をとられて突っ走ってしまうことが多いから。

   それでは、会社を救おうとしながら、結果的に誰も救えないという最悪の結果を招くことになっても不思議ではない。

   ターゲティング戦略では「どの社員たちの労働価値を満たして個人活性を上げていくのか、戦略的に優先順位を決めていくこと」が重要。たとえば、施策の際に、社員のどのレイヤーに向けたものなのか明らかにすべきと、上村さんは言う。

「労働価値が異なる社員全員を幸福にすることは不可能。不公平感は多かれ少なかれ伴う。そうした前提の中で、組織活性を上げ、企業成長を達成していくために、優先的に、『誰の』または『どの層の』マイナス感情の蓄積を減らすためのアプロ―チを行うべきなのか。そこをしっかり設定することで、その後行った施策の効果も変わってくる」

「『辞める人・ぶら下がる人・潰れる人』さて、どうする? 」
上村紀夫著
クロスメディア・パブリッシング
税別1580円

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