1世帯あたり現金30万円給付!――。「おっと、全世帯マスク2枚配布のセコさに比べたら、思い切った大盤振る舞いに出たな」と評判になったのも束の間、安倍政権が2020年4月7日に発表した新型コロナ感染拡大を受けた緊急経済対策では、こと「現金30万円給付」問題に関する限り、激しい怒りと失望の声がネット上に巻き起こった。
住民税が非課税になる水準にまで減収した世帯を対象にしており、「国民みんなが苦しんでいるのに不公平だ」という批判が圧倒的に多い。
ところで、アナタはもらえるのだろうか? 大手新聞各紙の分析とネット上の声を拾うと――。
独身者だと月収が8万円に減るとやっともらえる
政府が発表した減収世帯への30万円の現金給付の対象は、次のとおりだ。感染の拡大が広がった今年2月から6月までの月収がポイントとなり、
(1)今年2~6月のいずれかの月で収入が減り、年間ベースの所得が住民税非課税の水準になる世帯
(2)その月の収入が半分以上も大幅に減り、かつ年間ベースの所得が住民税非課税の水準の2倍以下にまで落ち込む世帯
―― となっている。
なんだかよくわからない基準だ。自分はいったいもらえるのか、もらえないのか。日本経済新聞(4月8日付)も、
「給付金は基準が難しい。家族構成によっても変わってくる。会計に詳しくない一般の人が1人で理解するのはハードルが高い」
としてファイナンシャルプランナーの助言を元に一般論としてこんな例を出した。
「単身の会社員の場合、収入が年収換算で100万円以下の水準(月8.3万円)まで落ち込むか、半減したうえで年200万円(月16.6万円)まで減った場合が対象になりそう。
会社員と専業主婦、子ども1人の家庭では、年205万円(月17万円)に減るか、収入が半分以下に減って年410万円(月34万円)を下回る場合があてはまるもようだ」
というからかなり複雑。
毎日新聞(4月6日付オンライン版)は、あっさりこう書いた。
「東京都23区内で専業主婦と2人暮らしのサラリーマンの場合、非課税になるのは年収が156万円以下の人に限られる。年収700万円の人は350万円に半減しても対象にならない。また、共働き世帯で一方が解雇されても、世帯主でなければ対象外だ」
時事通信(4月7日付オンライン)は、自治体によって住民税非課税の基準が違うため、東京23区のケースの複雑な表を掲載した。東京23区の会社員の場合は、独身者では年収100万円以下、4人世帯では年収255万円以下が非課税対象になるが、当てはまるケースとして以下の4例を紹介した。
(1)独身者A:年収ベース125万円が90万円に減少(編集部注:冒頭の条件の1に該当)
(2)独身者B:3月の月収がコロナ以前は25万円(年収ベース300万円)だったのにコロナ後に10万円に減少。しかし年収ベースでは120万円と非課税水準を上回る(条件の2に該当)
(3)4人世帯A:年収ベースで300万円から250万円に減少(条件の1に該当)
(4)4人世帯B:3月の月収がコロナ以前は50万円(年収ベース600万円)だったのにコロナ後に25万円に減少。しかし年収ベースでは300万円と非課税水準を上回る(条件の2に該当)
日刊スポーツ紙(4月8日)は「このレベルに減るとほぼもらえる」とばかりに、もっとわかりやすくするため東京23区の非課税世帯の家族数・年収・月収の目安の表を掲載した。
(1)単身:年収(100万円)月収(8万3000円)
(2)2 人:年収(156万円)月収(13万円)
(3)3 人:年収(205万円)月収(17万円)
(4)4 人:年収(255万円)月収(21万円)
(5)5 人:年収(305万円)月収(25万4000円)
安倍首相曰く「国会議員も30万円もらっていいの?」
いずれにしろ各紙とも、自己申告で源泉徴収票や給与明細書など収入を証明できるものを添付して自治体の窓口に申請する必要があり、支給条件が複雑なため問い合わせが殺到し、窓口が大混乱になるのは必至だ、と指摘している。
毎日新聞(4月8日付)は自民党議員の怒りと悲鳴の声を、こう書いている。
「首相が対策決定前に『マグニチュードに見合うだけの対策を実施していく』と繰り返していただけに、地元有権者から『うちは対象者ではないのか』などと突き上げられる議員も続出。中堅議員は『これでは、カネを出して恨みを買うという最悪のパターンになる』と苦り切った表情を見せた」
ネット上でも怒りの声が殺到している。
「過去に前例のない、大々的な、間髪を入れず、思い切って......とか言っておきながら、蓋を開けたら住民税非課税水準まで落ち込んだ人だけって、ハードル高すぎでしょ。単身だと年収100万円、8万円なんだから手取りだと6万円くらい。今どき家賃払って6万円で暮らせますか。だからドケチ政権と言われるのです」
「一番公平でスピーディーな対策は、国民一人ひとりへの一律の給付だが、なぜそれをやらないのか記者会見で問われて、安倍さん曰く、一律給付をすると自分を含めた大臣や国会議員、そしてコロナでは減収していない公務員にも給付されるからと...。この際、大臣や議員は報酬の何割かを返上すべきだとさえ思っていた私は目が点になった。まったく理由にも言い訳にもなっていない。公務員を除外すればすむ話でしょう」
実際に収入が減っている人からこんな声が。
「私は東京のタクシーの運転手です。3月の給料が手取り12万5000円でした。2月までは20万円を切ることはなかった。4月もっと下がると思います。完全歩合制の仕事です。対象外になりそうです。1世帯給付金の見直しをお願いします。もう限界です」
「私も東京のタクシーの運転手です。3月は手取り17万円くらい。4月はたぶん12万円予想。これでも単身だから対象外。5月は想像できない。緊急事態宣言が出たエリアのタクシードライバーは、どうしようもない。貯金崩しながら耐えるしかないのがつらすぎます。底辺の我々が支給対象じゃないなんて、この政府終わっています」
「詐欺師や闇金業者が必ず暗躍する」
世帯主の収入を基本とする給付の仕組みがおかしい、という声も多かった。
「最近残業がほぼゼロになって、この調子でいけば今月の収入は3人世帯の対象の『17万円』をクリアするかもとか思っていたけど、世帯主は親(年金)だから関係なかった」
「自己申告」という方法に関しても批判の声が多かった。所得を把握しにくい自営業者と所得が丸裸で把握されているサラリーマンとでは、不公平があるというのだ。しかも、減収した自営業やフリーランスの人には、別途、最大100万円の現金給付があるからなおさらだ。
「絶対不正受給する人が出てくる。自営業やフリーランスの人は、自己申告の際、色々なものを経費として押さえているはずで、非常に得だと思う。言いたくはないが、売り上げ減収なんて簡単に操作でできる。馬鹿を見るのは、収入を押さえられて、きっちり税金を納めているサラリーマンばかりだ」
「会計士です。今朝から給付金申請の電話相談が増えています。今回の現金給付案は多くの国民は納得されていないと思います。税金を配る以上、国民平等に一律に払うことが大事です。なぜなら真面目に納税している方ももちろんいますが、多くの人が過少申告をしているからです。本当に収益減か真偽が不明の者にまで税金を使ってほしくありません」
「書類操作に長けた目ざとい闇金業者や詐欺師がここぞとばかりに暗躍しそうだ。数か月後には家庭裁判所の前は、自己破産の申請で長蛇の列ができるのではないか。そして、市区町村の申請受付窓口は、『なぜもらえないのだ!』『書類はあるぞ!』という怒号が飛び交う阿鼻叫喚のクラスターと化すことは、容易に想像できる」
「安倍さん、トランプ氏は2度目の現金支給始めるよ」
そんな折り、米国のトランプ大統領が国民への2回目の現金給付を検討しているというニュースが飛び込んできた。すでに一定の所得制限を設けたうえで、大人に1200ドル(13万円)、子どもに500ドル(5万5000円)を給付することを決めているが、トランプ氏は4月6日、2回目の現金給付について「真剣に議論している」と語ったという。
米国在住の日本人からこんな投稿が。
「カンザス州在住の者です。いやいや、米国では現金給付の基準は全然厳しくないですよ。結婚している家庭では2019年の収入が2000万円超えじゃないかぎりもらえます。明後日くらいにはお金の支給が始まるようです。ちなみにコロナのせいで仕事をなくした人たちは7月下旬まで毎週、通常の失業手当プラス600ドル(6万5000円)が支給されます。私の知り合いの中には、失業したけど失業手当だけで月30万円くらいもらえるので助かる、と安心している人もいます」
当然ながら、この投稿にはこんな羨望の声が相次いだ。
「安倍さん、麻生さん!トランプさんは2回目の現金支給だそうですよ。ホント、あなたたちの決断力のなさにガッカリ。国民一律はマスク2枚のみ。それもまだ来ていないよ!」
(福田和郎)