「補償はもらえたら儲けもの」という若手経営者
好対照だったのは、2店舗の居酒屋を経営するY社のN社長。34歳。「緊急事態宣言に合わせて当面店は休業し、従業員は自宅待機させます」と、国の「要請」に従うとの姿勢を示しました。
理由は、「緊急事態宣言で街が実質休眠状態に陥る以上、店を開けても意味がない。自粛ムードで居酒屋ニーズは激減するでしょうし、在宅勤務が増えれば、今以上に来店客が減ることも目に見えていますから」と。もちろん、在宅の社員に給与を払いながらの店休は経営的に厳しいとのこと。それでも、「要請」を受け入れたのには理由がありました。
「ほとんど仕事にならない時期に、社員を出勤させても時間のムダです。通勤時の感染リスクもあるし、感染減少をめざす国の方針に従うのは企業としての責任を果たすことにもなるだろうと。ならば自分も含めて社員みんな在宅で、来店客を相手の商売とは違うビジネスを考えるいい機会だと思いました。ふだんできませんから。オンラインで社員と話をしながら、皆で新たなビジネスの創出を試みようと。今の危機がいつ終わるかもわかりませんし、補償を待っていてもあてにならない。次なる新型コロナだって、いつ起きるかもしれません。長期的に見てここはチャンスだと、考え方を切り替えることにしました」
彼は外食勤務のサラリーマン時代に貯めた資金を元手に4年前に店を立ち上げ、他店にないおもてなしと新たなメニューやサービスを次々打ち出して、遂には予約が取りにくい人気店に仕上げました。
そして昨年には2号店をオープン。まさにやる気全開の前向きな姿勢と若手経営者らしい切り替えの早い経営マインドで、ここまで右肩上がりに業績を引っ張ってきたという印象どおりと思える今回の決断でした。
「おカネが足りなくなるなら、金融機関から借ります。特別融資枠もあるわけですから。この機会に練ったアイデアをビジネスモデルに加えて、平時に戻ったらたくさん稼いで返済すればいいわけでしょ。
国の『要請』に応える社会的責任? 正直あまり考えたことはないですが、自分がビジネスできているような平和な国であることへの感謝はあります。今回の国の『補償』はもちろん、もらえるならもらいますが、別にあてにもしていません。もらえたら儲けもの程度。そんなことより、自分で動いて稼いだほうが早いかもしれませんしね」
有事発生のマイナス局面で、経営者が意外に忘れがちなのが前向きな姿勢です。こんな時には、壮年経営者が若手経営者に学ぶことのほうが意外に多いのかもしれません。(大関暁夫)