正方形のなかに白黒の模様が不規則に並ぶQRコード。開発されてから25年以上が経ち、この間にさまざまな用途で使われるようになって、いつの間にか私たちの暮らしに欠かせない存在になっている。
プロモーションが盛んになっているキャッシュレス決済でもクローズアップされているので、多くの人は、そのカタチに見覚えがあるに違いない。
とはいえ、QRコードの誕生や用途拡大の歴史については、あまり知られていない。本書「QRコードの奇跡 モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ」は、その不思議な名前の由来を含め、開発から現在に至るまでをたどった物語。
「QRコードの奇跡 モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ」(小川進著)東洋経済新報社
日本発の国際標準となったイノベーション
QRコードは、トヨタ自動車の子会社、デンソーが1994年に開発した。世界的に知られるようになったトヨタの自動車部品の生産管理である「かんばん方式」の効率化が、その狙いだった。
「かんばん方式」は、「必要なものを必要な時に必要なだけつくる」という考え方に基づいたもので、「かんばん」は、部品納入の時間や数量などが書かれた指示書のこと。トヨタ系のサプライチェーンを流れる「かんばん」として使われたのが、QRコードの始まりだ。
開発したデンソーは、1949年にトヨタの開発部門の一つだった「電装部」が「日本電装株式会社」として分離独立し、トヨタ自動車などへの部品供給会社から成長して、1969年に「株式会社デンソー」に社名を変更した。
以前の「かんばん」には、独自のバーコードが使われていた。しかし、生産規模が高まるにつれ読み取りに手間がかかるようになり、この問題の解消のためQRコードを使うようになった。
その読み取りの高速性もそうだが、バーコードの約350倍という圧倒的情報量や、誤りを検出・訂正する性能の高さが評価され、また、オープンソースとされたことから、用途がトヨタのサプライチェーンにとどまらず、さまざまな場面で使われるようになり、日本発で国際標準になった数少ないイノベーションの一つになった。
サプライチェーンを飛び出して......
近年、QRコードは世界でもインフラ革命の担い手になっていることが、本書では報告されている。2002年には、携帯電話のカメラでQRコードをスキャンすれば目指すウェブサイトにアクセスできるようになった。06年には、空港のチェックインカウンターや自動チェックインで手続きすることなく保安検査場を通過し、航空機に搭乗できるようになっている。
こうした携帯電話やスマートフォンへの応用、航空業界での利用のほか、コンビニチェーンのシステムなど、2000年代に入って、各業種のなかで用途が開発され爆発的に普及していく。
最近では、ホームの安全性を高めるため電車に貼り付けたQRコードを駅ホーム上のカメラで読み取り、ホームドアと車両ドアの開閉を行う仕組みの展開がスタートした。
こうした「暮らしに欠かせない存在」ぶりが報告される一方、世界の「インフラ革命」のシーンで、キーロールを果たしていることも詳述される。中国でお金をやり取りするには、QRコードがなくてはならないものになっており、QRコード決済の普及率は98%に達しているのは、その代表例だ。
搭載情報量や性能のほか、小さい面積で済む省スペース設計、また「デザインの自由度」も魅力となって、QRコードは、引き合いで他に数々あった他のコードを凌駕。2014年には欧州特許庁が主催する「欧州発明家賞」を日本で初めて受賞したほどだ。
著者の小川進さんは、神戸大学大学院経営学経営科教授で、研究領域は、イノベーション、経営戦略、マーケティング。QRコードを開発してデンソーの技術者らをはじめ、さまざまな関係者への豊富な取材で構成され、読み応えがある。
「QR」という名前は、関係者が長く議論を重ねたすえにも結論が出ず及んだ多数決で決まった。最後まで争った対抗案は「QT」。なぜ「QR」が支持されたかは、本書でご確認を!
「QRコードの奇跡 モノづくり集団の発想転換が革新を生んだ」
小川進著
東洋経済新報社
税別1800円