無職のおじさん兄弟が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始めることに――。
今期のテレビ東京系ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」は、コメディながら、人間の抱える煩悩や業(ごう)を深く考えさせられる良作でした。
演技派の古舘寛治さん、滝藤賢一さんのW主演。脚本は「逃げるは恥だが役に立つ」や「アンナチュラル」など多くのヒット作を手掛ける野木亜紀子さんで、おもしろくないわけがない! さらに注目すべきは、「レンタルおやじ」という働き方です。
さまざまな人の無茶ぶりに「四苦八苦」
物語は、古舘寛治さん演じる元予備校講師の兄のもとへ、ちゃらんぽらんな性格で勘当された弟(滝藤賢一さん)が戻ってくるところからスタート。2人とも無職で、なんとか生活費を工面せねばと焦っていたところへ、「1時間1000円」のアルバイトが持ちかけられます。それが、「レンタルおやじ」です。
「レンタルおやじ」とは、中年男性を1時間1000円で「レンタル」し、雑談や付き添いなど、さまざまなことをお願いできるサービス。主人公の兄弟は「おやじ」として登録され、見ず知らずの人の結婚式に参列したり、余命いくばくもない老婦人の買い物に付き合ったり、お金持ちが集まるホームパーティのゲストとして呼ばれたり......。
人々との出会いや、未知の経験を通して、コタキ兄弟は大きく成長していくのです。
さて、この「レンタルおやじ」は、リアル社会でも「おっさんレンタル」として、評判なのです。創業者の西本貴信さんは、あるウェブメディアのインタビューで、「人気のおっさんになると、1人で月に50~60件対応している人もいる」と語っていました。(ねとらぼ『「スケベ」「汚い」「お説教臭い」を払拭 「おっさんレンタル」はなぜ5年間客が途絶えないのか、創業者を取材』2017年03月25日)
サイトを見ると、「カフェ大好きで甘党」のおっさんや、「頑張るシャイなおっさん」「バイオリンも弾けるITおじさん」など、個性豊かなプロフィールが並んでいます。各々のアピールポイントを打ち出しており、中には「無害なおっさんです」という人も。
人気の男性も含め、全員が「1時間1000円」でレンタルでき、利用者は女性がほとんどだそうです。西山さんのインタビューによれば、「下心」をもった男性が登録してトラブルにならないよう、登録者には月額1万円の加盟金を払ってもらっているとか。そうすることで、毎月1万円払ってまで人々に貢献したい、稀有な「おっさん」を集められるんですね。
「1時間1000円」の絶妙なバランス
「おっさん」のギャラは一律1時間1000円で、高すぎず安すぎず、非常にいいですね。全員が同じ価格なので、「おっさん」という集合体としての無害さをアピールできているように思います。
完全に無料だと、お客さんの要求がどんどんエスカレートする恐れもあり、サービスが疲弊します。また逆に、「人気のおっさんは1時間5000円」とか、男性の職業や社会的地位などによって価格差をつけるとか、そういうことをやり始めると、一気にその「おっさん個人」にスポットが当たり、集合体としての無害さが消えてしまいます。
「どこにでもいるおっさん」に、ちょっとした頼みごとや、誰にも言えない話を聞いてほしい。そのような匿名性の高いニーズに応えるには、おそらく一律1000円という価格が妥当なのでしょう。
もしあなたが、「おっさん」として登録するなら、いくらで自分を売るでしょうか――。
制限はあるものの「何でもしますよ」という「おっさんレンタル」は、その時間だけ労働力を売るアルバイトとは異なり、自分の存在をまるごと提供するようなものです。
だからこそ、はじめから「1時間5000円」や「1万円」など、高値を付けすぎるのは「ハイリスク」ではないでしょうか。高いお金を払えば払うほど、お客さんは大きな見返りを求め、「こんなはずではなかった」とクレーマーになる可能性があるからです。
かといって、安い価格で買い叩かれてしまっては、元も子もありません。
自分の「値付け」。これは「おっさん」だけでなく、フリーランスとして働く人や、転職が当たり前になった現代のビジネスパーソンにこそ、必要な視点ではないでしょうか。クレーム覚悟で高値をつけるか、ややお得な価格設定にして、「過剰なサービスはしない」主義でいくか。「レンタルおやじ」をテーマにしたドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」を見ると、そんなことを考えさせられるのです。
ちなみにドラマの中で、コタキ兄弟のレンタル代は「2人で1時間1000円」。つまり、1人あたり500円でした。さすがにこれは、安すぎるかも......。(生野あん子)
◆ ドラマ24 「コタキ兄弟と四苦八苦」 ◆
テレビ東京系。毎週金曜日の深夜0時12分~0時52分。2020年1月10日深夜~3月27日深夜まで放送。主演は、古舘寛治と滝藤賢一。脚本は、野木亜紀子によるオリジナル。古滝一路(古舘)と古滝二路(滝藤)の兄弟が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始め、さまざまな人々からの無茶な依頼に「四苦八苦」しながらも懸命に生きようとする姿を描いた。喫茶店「シャバダバ」の看板娘、さっちゃん役を芳根京子、「レンタルおやじ」代表のムラタ役を宮藤官九郎が演じている。