「1時間1000円」の絶妙なバランス
「おっさん」のギャラは一律1時間1000円で、高すぎず安すぎず、非常にいいですね。全員が同じ価格なので、「おっさん」という集合体としての無害さをアピールできているように思います。
完全に無料だと、お客さんの要求がどんどんエスカレートする恐れもあり、サービスが疲弊します。また逆に、「人気のおっさんは1時間5000円」とか、男性の職業や社会的地位などによって価格差をつけるとか、そういうことをやり始めると、一気にその「おっさん個人」にスポットが当たり、集合体としての無害さが消えてしまいます。
「どこにでもいるおっさん」に、ちょっとした頼みごとや、誰にも言えない話を聞いてほしい。そのような匿名性の高いニーズに応えるには、おそらく一律1000円という価格が妥当なのでしょう。
もしあなたが、「おっさん」として登録するなら、いくらで自分を売るでしょうか――。
制限はあるものの「何でもしますよ」という「おっさんレンタル」は、その時間だけ労働力を売るアルバイトとは異なり、自分の存在をまるごと提供するようなものです。
だからこそ、はじめから「1時間5000円」や「1万円」など、高値を付けすぎるのは「ハイリスク」ではないでしょうか。高いお金を払えば払うほど、お客さんは大きな見返りを求め、「こんなはずではなかった」とクレーマーになる可能性があるからです。
かといって、安い価格で買い叩かれてしまっては、元も子もありません。
自分の「値付け」。これは「おっさん」だけでなく、フリーランスとして働く人や、転職が当たり前になった現代のビジネスパーソンにこそ、必要な視点ではないでしょうか。クレーム覚悟で高値をつけるか、ややお得な価格設定にして、「過剰なサービスはしない」主義でいくか。「レンタルおやじ」をテーマにしたドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」を見ると、そんなことを考えさせられるのです。
ちなみにドラマの中で、コタキ兄弟のレンタル代は「2人で1時間1000円」。つまり、1人あたり500円でした。さすがにこれは、安すぎるかも......。(生野あん子)
◆ ドラマ24 「コタキ兄弟と四苦八苦」 ◆
テレビ東京系。毎週金曜日の深夜0時12分~0時52分。2020年1月10日深夜~3月27日深夜まで放送。主演は、古舘寛治と滝藤賢一。脚本は、野木亜紀子によるオリジナル。古滝一路(古舘)と古滝二路(滝藤)の兄弟が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始め、さまざまな人々からの無茶な依頼に「四苦八苦」しながらも懸命に生きようとする姿を描いた。喫茶店「シャバダバ」の看板娘、さっちゃん役を芳根京子、「レンタルおやじ」代表のムラタ役を宮藤官九郎が演じている。