三菱マテリアルの「バッドニュースファースト」
化学製品デンカの山本学社長は、中国の古典「旧唐書」に由来する「胆大心小」(たんだいしんしょう)という言葉を贈った。
「歓迎の言葉に替えて、中国の古典からひとつ、皆さんの今後へのヒントとなる四字熟語をご紹介します。『胆大心小』です。胆(きも)は大きく、 心は小さくと書きます。度胸と細心の注意で事に当たれば、たいていの難局は乗り越えられるという意味です。臆さず、かつ注意深く、ことにあたり、成功体験や、あるいは価値ある失敗の積み重ねで自分を磨いていってください」
佐賀県唐津市にある老舗の醤油メーカー、宮島醤油の宮島清一社長は、「伝統ある食文化に貢献する気概を持とう」と呼びかけながら「去華就実」(きょかしゅうじつ)という、聞きなれない言葉を持ち出した。
「これは明治15年(1882年)に唐津藩の藩主後継者から弊社の創業者に贈られた言葉です。この言葉は、『華やかなこと、表面的なことを捨てよ。実質あることに専念せよ』ということを教えています。華やかな仕事や暮らしに憧れ、さほどの努力なしに短期的に大きな利益を上げることを追い求める風潮は、いつの時代にもあります。そうしたことを厳しく戒めるのが宮島の精神なのです」
老舗メーカーらしい「社是」なのであった。老舗と言えば、伊藤忠商事も近江商人の伊藤忠兵衛によって江戸の安政年間(1858年)に創業された麻布類の卸売業が発祥だ。
そこで伊藤忠商事の鈴木善久社長は「商いの極意」を、こう説くのだった。
「皆さんに心すべき指針を申し上げたい。伊藤忠の商いの基本『か・け・ふ』です。伊藤忠の経営方針は『コミットメント経営』、その鍵となるのが商いの三原則『稼ぐ』『削る』『防ぐ』、頭文字をとって『か・け・ふ』です。『稼ぐ』は商人の本能。『削る』は商人の基本。『防ぐ』は商人の肝としています。(コロナ禍で)しばらくは『稼ぐ』には難しい環境が見込まれる中、まずは『削る』『防ぐ』を徹底して計画の達成を目指さねばなりません。このような厳しい経済環境こそ、伊藤忠のコミットメント経営の見せどころです」
各社の社長サンたちが盛んに強調したのは「コミュニケーション力を付けよう」ということだった。三菱マテリアルの小野直樹社長は、そのことを非常におもしろい言い方で、こう表現した。
「当社グループは、自由闊達なコミュニケーションができる健全で風通しの良い組織づくりに力を注いでおり、『バッドニュースファースト』を合言葉としています。悪いニュースほど、いち早く伝えること、そのためにはお互いを理解し、信頼できる関係の構築が不可欠です。皆さんには、職場の上司や同僚とのコミュニケーションを日々重ねていただきたい。コミュニケーションには3つの『きくちから』が大切です。話を最後までよく聞くことができる『聞く力』、話の内容や意味することを理解する『聴く力』、そして知らないこと、知りたいことを人に尋ねる『訊く力』です」
社長サンたちの個性あふれる言葉が、新入社員の胸を打つケースも多かった。