コロナ危機に「耐える」経営の極意 銀行借り入れは「借りられるときに目一杯、借りろ」!(大関暁夫)

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   新型コロナウイルス危機は収まる気配を見せずに、世界中に拡大の方向で広がりを見せています。そして遂に、7月に予定されていたオリンピックの開催までもが、1年の延期を余儀なくされるという事態にまで至りました。

   ワクチンなどの治療薬の開発には1年以上の時間を要するといわれ、まだまだまったく終息時期が見えない、この新型コロナ危機ですが、個人的に仕事柄、気になるのはやはり企業業績への悪影響、さらには事業継続への懸念といった問題です。

  • 資金繰り、どう乗り越えようか……
    資金繰り、どう乗り越えようか……
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政府系金融機関を当てにしていたら、潰れてしまう!?

   内部留保を溜め込んでいる多く大企業は、当面の業績にこそ大きな打撃を受ける可能性はありますが、それがすぐさま企業の存続にまで影響するかといえば、赤字企業など一部の例外を除けば、そうではないと思われます。

   問題は中小企業です。一般的に言われている、中小企業の平均的手持ちキャッシュフローは約1か月分です。

   2月下旬に政府が学校の一斉休校を決めたあたりから、消費における自粛ムードや商談ストップの風潮が起き始めました。これらの動きから約1か月を過ぎた現段階は、いよいよ資金繰りで苦しくなる企業が続出しそうな雲行きであり、ダメージの大きい個人経営の飲食店などでは、すでに閉店を余儀なくされているところも出始めています。

   国の中小企業救済策はどうかといえば、無利子・無担保融資制度の取り扱いを開始。加えて取引金融機関からの融資に関しては保証協会特別枠を新設するという対応が動き出しています。

   しかし、この手の融資で毎度話題になるのが、手続きの煩雑さという問題。今回の融資はかなりスピーディな対応をしていると政府は公言していますが、2002年3月17日現在の実行件数は全国で1万5000件とは、苦しむ中小企業の数に比べて、あまりに少なくないでしょうか。

   来店客の激減に悩む知り合いの居酒屋経営者が言います。

「政府系金融機関融資は商工会議所に加盟していないと手続きや提出書類が煩雑。一方の緊急融資保証枠は役所に認定書を申請し、それを受けて取引銀行経由で保証協会の保証の審査を経て融資に至る二度手間、三度手間なもの。どちらも急を要する零細事業者には敷居が高く、手続きでガタガタしているうちに手遅れになってしまう」

と、政府の旧態然とした対応を嘆いていました。

銀行は「雨の日には傘を貸さない」

   令和の時代にふさわしい対応は、中小企業にとって煩雑な必要書類提出を前提とした融資ではないでしょう。フィンテックを活用するなら、中小企業は取引銀行に必要額を申し出るだけで、特別な資料提出を求めなくとも取引履歴や口座データを元にAIで緊急融資審査をおこない資金を3日以内に融資する。かつ協会保証は全案件融資金額100%の保証付与を前提として事後承認で手続きをする、その程度の対応は十分可能なはずです。

   一部の銀行で緊急融資に関して、これに近い新しい動きが出始めているようですが、救済支援の大もとの政府が旧態然とした政府系金融機関の審査を軸とした緊急融資取り扱いを、何の疑問もなく公表している対応には、中小企業を支援する立場からは憤りに近い感情すら覚えるところです。

   先週末のことでしたが、以前経営アドバイザリーでお手伝いをしていた企業S社の社長から突然電話をいただきました。瞬間的に「新型コロナ対応に関する相談か?」と思いましたが、聞いてみると相談ではなく過去のアドバイスに対する感謝、お礼の電話でした。

「世間の中小企業は今、新型コロナ危機で大変な苦境に陥っています。特に問題は、資金繰りです。売り上げ激減の長期化によって、そろそろ資金繰りに苦しみ始めた企業が続出しています。私の仕事仲間の企業でも、軒並み同じような悩みを話し始めています。
そして共通して言うのは、政府の緊急融資は手続きがよくわからない。取引銀行は新型コロナの影響による業績悪化に対して、表向きはともかく実情はやはりおよび腰とのこと。その点でうちは、大関さんのアドバイスで当面の手元資金に余裕があるので本当に助かっています。この資金をうまく使いながら、コロナ不況を乗り越えるべく次なる一手を考えていけますから。あの折のアドバイス本当にありがとうございました」

   私は最初、過去のどのアドバイスのことなのかピンと来なかったのですが、社長の話を聞くうちに「銀行融資は借りられる時に、借りられるだけ借りておけ」というアドバイスのことを言っているのだということがわかってきました。

「晴れた日」の金利負担は「保険」だと思いなさい!?

   このアドバイスは、じつはこのS社に限ったことではなく、「銀行から運転資金の借入れ売り込みがあったのだが、今資金的に特段借り入れの必要性を感じていない。こういう売り込みは受けるべきか断るべきか」という質問をされた時の、私の統一回答でもあります。

   そのココロは何か――。元銀行員の私が申し上げるのは口幅ったいのですが、銀行は世に言われるとおり「晴れの日に傘を貸し、雨の日には傘を貸さない」取引姿勢が基本です。であるならば、「晴れの日に傘を貸したい」と言われた折には、「来るべき(いつかは分かりませんが)雨に日に備えて傘を借りておきなさい」と、アドバイスをさせていただいているのです。

   「当社には今、信用でいくらまで貸していただけますか」と取引銀行のクレジットラインを確認したうえで、「可能な限り目一杯借りておけ」とも申し上げています。

   こう申し上げるとS社を含め、たいていの社長は「そんなことをしたら、金利がもったいない」と借り入れを渋るのが常です。私が考えるこの金利負担に対する理解は、「晴れた日の借り入れは、個人で申し上げるなら万が一の時の治療費負担に備えた生命保険です。すなわち金利は保険料です。社長自身が、保険料がかかるから保険には入らない主義だという信念でもお持ちでないなら、ご自身と同じく会社も保険に入っておきましょう」ということなのです。

   現下の問題解決には繋がらない話ではありますが、企業経営に付きものの「突発」という出来事に対する備えの考え方として、この機会にご記憶にとどめていただければ幸いです。

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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