発達障害といえば、子どもに多くて大人になれば治るというイメージがあるが、じつは先天的な脳機能の凸凹と環境のミスマッチにより社会生活に困難が生じる障害だ。
社会人になっても困難を感じながら、仕事をしている人は多い。同じ職場になったら、どういうことに配慮して接していけばいいだろうか。
そんななか、東京都世田谷区が発達障害を啓発する、クスっと笑えるオモシロ動画を作り、2020年3月26日、YouTubeに公開した。「もしかしたら自分も?」と悩んでいる人や、「もしかしたら同僚のあの人も?」と思っている人は必見だ。
「様子を見てきて」と言われ、ただ見つめ続けるだけ
この動画は、女優の東ちづるさんが監修・出演した「ハッタツ凸凹あるある」だ。国連が定めた4月2日の「世界自閉症啓発デー」にむけて、まぜこぜの社会をめざす一般社団法人「Get in touch」の代表を務める東さんや、NPO 法人東京都自閉症協会(今井忠理事長)が監修として参画。
映像制作のプロたちの協力を得て、当事者の人々や世田谷区職員らがボランティアで出演した。自閉症などの「発達障害」の特性を映像で表し、思わず「クスッ」と笑えて、学べる動画になっている。「障害」という言葉には違和感があるとして、タイトルは「ハッタツ凸凹」とした。
動画は、中学生、高校生、社会人が主人公の3本。そのうち社会人が主人公の「エピソード1:ハッタツ凸凹あるある『言われた通りにやったのに...の巻』」のストーリーはこうだ。
とある会社のオフィス。東ちづるさん演じる課長がオッサン部下に声をかける。
東ちづる課長「コピー遅いわね」
オッサン部下「どうしたんですかね」
そこで、東ちづる課長はさわやかなイケメン若手社員の前田さんに声をかける。
東ちづる課長「前田さん、ちょっと下のコピー室に行って様子を見てきてくれる?」
前田さん「はい、見てきます」
しかし、前田さんは階下のコピー室に行ったきり、なかなか帰ってこない。
東ちづる課長「前田さん、帰ってこないねえ」
オッサン部下「私が見てきますね」
オッサン部下がコピー室に行くと――。驚きの光景が!
3人の社員が膨大なコピーの山と悪戦苦闘をしているのだが、前田さんはその作業を手伝おうともせず、ただ、カアーっと目を開いて見つめているのだった。まるで鬼のような形相で一生懸命に......。
ここで、黒装束の「あるあるコンビ」が登場。踊って歌いながら発達障害の人の特徴をこう紹介した。
「あと何分かかかるか聞いてきて」と指示は具体的に
「発達障害のある人は 言葉の裏にある意味を読みとるのが苦手。前田さんは『様子を見てきて』と言われたので、皆が準備をしている様子を見ていました。指示ができるだけ具体的なほうが動きやすいのです」
そこで改めて東ちづる課長は前田さんに指示を出し直したのだった。
東ちづる課長「前田さん、下に行ってコピーがあと何分かかかるか聞いてきて」
前田さん「はい。聞いてきます」
最後にみんなでこんな踊りを。
「ハッタツ、これでいいのだ。ハッタツ、これでいいのだ」
「なんだか不思議」「ちょっと変わっている」......そんなふうに思われがちな行動の背景には ASD(自閉症スペクトラム)などの発達凸凹があるのかもしれない。生まれつきの特性だが、日常生活に大きな困難を抱える人もいれば、ほとんどハンディーがわからない程度の人まで、さまざまなタイプがいる。周囲の人はその多様性を理解して楽しみながら付き合おうと呼びかけている。
東ちづるさんは、こう語っている。
「吹き出し笑いでNGもありという愉快な撮影現場でした。スタッフも出演者もみんなボランティア。愛と勢いとプロのスキルで、素敵な作品が完成しました。発達凸凹の皆さんを知れば知るほど、キュートでユニーク。もちろん戸惑うことも煩わしいこともあるけれど、それは人間同士なら誰しもあることです」
なお、世田谷区が作成した啓発動画はこの他に、「エピソード2:ハッタツ凸凹あるある 『正直すぎて冷や汗の巻』」と「エピソード3:ハッタツ凸凹あるある 『変化でパニックの巻』」がある。
(福田和郎)