お金がほしい。もっと稼ぎたい。そう思って「コミュニケーション力を磨こう」と思う人はいません。
しかし、じつはコミュニケーション力を磨くことこそが、収入を大きく増やすための近道だったのです。
100万人のフォロワーがいれば1億円を稼ぐのは簡単ですが、1億円あっても100万人のフォロワーを得ることはむずかしいのです。人とのつながりが豊かさに繋がる時代になった今、1億円を稼ぐ人は、どんな話し方をして、その人脈を築いているのでしょうか――。
「うまくいく人がやっている 1億円会話術」(岡崎かつひろ著)きずな出版
相手の感情を理解すること
2000年以降、多くの会社で成果主義を柱とする人事制度が導入されました。組織活性化が期待されたものの、制度上の矛盾を露呈する結果に陥ります。社員のマインドは疲弊し、将来のパスが見えにくくなりました。成果主義バブルを実感しながらも疑問を感じていたのです。
当時、成果主義に対峙する理論としてEQ(Emotional Intelligence Quotient)がブームになっていました。筆者は、EQ理論提唱者のイェール大学のピーター・サロベイ博士、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士との共同研究を行なう研究機関のディレクターとして、EQ理論の普及にまい進していました。
EQとはIQの対峙理論です。IQが高い人(知能指数が高い人)が成功するのではなく、EQ(こころの知能指数)が高い人がビジネス社会で成功するという考え方です。ある事例を紹介しましょう。
あなたは、プレゼンに向かうためタクシーに乗りました。気合を入れて会社を出ました。ところが、乗ったタクシーの運転手さんの話が暗いのです。「景気はどう」から始まり、「景気が悪いしノルマは厳しい」。訪問先に着くころには、高揚していた気持ちはすっかり沈んでいました。その日のプレゼンは見事に大失敗。短時問では感情を調整し、高めることができなかったのです。
一方では、話すと気分がよくなり、元気を与えてくれる人もいます。多少、気分が落ち込んでいても、会うとホッとし、話すほどに元気が湧いてきます。彼らはいったい何か違うのでしょう。一番の違いは、使っている「言葉」にあります。「明るい言葉」は自分の気持ちを明るくし、周囲を明るくすることができます。
著者の岡崎かつひろさんは本書の中で、有能な「ポジティブ」「笑顔」「リアクション」の効能を解説しています。じつは、この考え方は学術的にも非常に正しいものです。
アメリカで行われているトレーニングの一つに、「エモーショナルーポーカー」というものがあります。これはトランプの代わりにいろいろな人の顔写真が印刷されたカードを使い、その表情から同じ感情と思われるカードを選別し、ペアとして扱うというポーカーゲームの一種です。たくさんの表情を見るうちに、自然と人の感情がわかるようになります。
相手の自尊心をくすぐる
相手の感情が理解できたら、人間関係を構築するための行動に移さなければいけません。それには、相手の自尊心をくすぐることが得策です。自尊心をくすぐるにはどうしたらいいでしょうか。
簡単に言えば、「ヨイショ」「ゴマすり」が近い意味になります。一般的にはネガティブな印象を持つ人が多いかもしれませんが、そんなことはありません。ふつうの人が嫌がったり、なかなかできないことにこそ、価値があるものです。
筆者はこれまで、「絶対にこの人にはかなわない」という人に出会ったことがあります。その人のやることなすこと、わかりやすすぎるくらいの「ヨイショ」「ゴマすり」なのです。それも極めれば、まったく嫌味にもなりません。むしろ尊敬に値します。
その人はH社に勤務する「ゴマすり男」(仮名)さん。「すり男」さんは、どちらかというと、カッコ悪い容姿。背は低く中年太り、髪は薄くファッションセンスも微妙。しかし、ゴマすりの腕前は天下一品なのです。
「社長! そのネクタイ、すばらしいセンスでいらっしゃいますね」と、ネクタイを褒めるのはゴマすりの代名詞のようなもなもの。しかし、「すり男」さんは臆面もなく、堂々とゴマすりの王道をいきます。所作やトークは磨きがかかり簡単にはマネできません。
「ヨイショ」「ゴマすり」は、社会的に必要とされるスキルです。いまの若い人はあまりしませんが、仕事を潤滑にすすめたいなら「ヨイショ」「ゴマすり」は必須でしょう。
本書には、 1億円稼ぐための会話術がいくつか紹介されていますが、内容はわかりやすく平易なものです。部下の指導に悩める上司や、職場で良好な人間関係を築くためのビジネス会話術として活用することができます。(尾藤克之)