「第5世代移動通信システム(5G)」の商用サービスが、まもなく始まる。通信会社は、対応するスマートフォンのラインアップがそろいはじめた。
「革命」とまでいわれる5Gだが、実用段階に入ったいまでも、一般ユーザーには全体像がわかりにくい。本書「『5G革命』の真実 5G通信と米中デジタル冷戦のすべて」は、5G通信について「これ一冊読めば、知識がなくてもザックリわかる」ようにと書かれた。5G時代の幕開けにフィットする参考書といえる。
「『5G革命』の真実 5G通信と米中デジタル冷戦のすべて」(深田萌絵著) ワック
あらゆるものをネットワーク化
著者の深田萌絵さんは、ITビジネスアナリスト。数年前から企業向けに5Gについての通信実験を重ね、そのレポートを作成に従事しており、5Gエキスパートの一人だ。
あるとき自身のユーチューブの番組で、5Gがこれまでの通信規格とどう違い、何が新しくなるかのほか、国際政治に影響するほどの革命的アップデートであることを解説したところ「意外と」反響があり、その内容をベースに技術的な話を含めて書籍にまとめることを考えた。そして生まれたのが、本書だ。
通信技術と歴史から語り起こし、5Gがあらゆる産業のインフラになること、米中両国による「覇権争い」のキーファクターであることなどについて、わかりやすく解説している。
5Gの大きな特徴とされるのは3つ。(1)超高速(2)超低遅延(3)多数同時接続――。(3)の多数同時接続は、スマホやパソコンだけではなく、家電など身の回りのものや機器をネットワークにできる機能で、生活の利便性、産業の生産性などを飛躍的に向上させると期待されている。
超高速も、これまでの4Gより飛躍的に性能は向上するが、5Gの台頭で、実現が難しいとされ、さほど重要視されていなかった「超低遅延通信」という技術が脚光を浴びることになった。
これはデータ伝送時に発生する時間的遅延が、人間に知覚できないほどに小さくなるという。広く使われるようになれば、あらゆるものをネットワーク化し「地球のすべてがシンクロ(同調)する」IoE(インターネット・オブ・エブリシング)時代を実現するという。
自動車産業に押し寄せるパラダイムシフト
5Gが「革命的」とされるのは、通信をめぐる技術的革新だけではなく、従来の産業構造に大転換をもたらす意味でも、そう評される。
5Gによるパラダイムシフトの波が押し寄せている業界の一つは自動車産業だ。ハンズオフドライブ(手放し運転)機能がすでに一部車種で導入されるなど、自動運転実現に向けた動きが盛んだが、それも5Gの技術を使うことでグンと加速することが見込まれている。
日本や世界の各自動車メーカーは、それぞれの構想を立てて複数のシナリオを描いている段階。日本のあるメーカーでは、データセンターのAI(人工知能)で一括管理する「中央集権型自動運転」と、ブロックチェーンや自律走行による「非中央集権型自動運転」という、相反する2つのシナリオを同時に研究しているという。前者では、データセンターと自動車とのあいだで通信処理遅延の問題があったが、5Gを使って解決できる可能性がある。
自動車からオンラインで取得できる情報といえば、今のところはGPSを使った位置情報程度だが、ハンズオフドライブよりずうっと進化した自動運転を実現するためには、すべての自動車をネットでつなぎ、「リアルタイム」で「動画のような大きなデータ」を同時に送れるような仕組みが欠かせない。
つまり、「大容量」「低遅延」「同時多数接続」というスペックを満たした5G通信があって、初めて実現される。
そして、その通信インフラを格安で提供するのが、中国の通信大手、ファーウェイ。中国は同社に世界でその役割を担わせようとする一方、中国のプラットフォーム企業にシェアライドのアプリで支配的存在になることを託すことを考えているという。
仮にこれが実現すると、5Gによる「自動車産業革命」は、中国にとってはまさに革命でも、日本をはじめ世界の他の国々にとっては「自動車産業の危機」だ。米国が中国と激しくやりあっているのは、貿易不均衡や「通信スパイ」の問題だけでなく、それらは表面的なことで、深層にはこうした問題があるのだ。
これは「『5G革命』の真実」の一端。本書には、さらに多くの驚くべき「真実」が盛り込まれている。
「『5G革命』の真実 5G通信と米中デジタル冷戦のすべて」
深田萌絵著
ワック
税別920円