自動車産業に押し寄せるパラダイムシフト
5Gが「革命的」とされるのは、通信をめぐる技術的革新だけではなく、従来の産業構造に大転換をもたらす意味でも、そう評される。
5Gによるパラダイムシフトの波が押し寄せている業界の一つは自動車産業だ。ハンズオフドライブ(手放し運転)機能がすでに一部車種で導入されるなど、自動運転実現に向けた動きが盛んだが、それも5Gの技術を使うことでグンと加速することが見込まれている。
日本や世界の各自動車メーカーは、それぞれの構想を立てて複数のシナリオを描いている段階。日本のあるメーカーでは、データセンターのAI(人工知能)で一括管理する「中央集権型自動運転」と、ブロックチェーンや自律走行による「非中央集権型自動運転」という、相反する2つのシナリオを同時に研究しているという。前者では、データセンターと自動車とのあいだで通信処理遅延の問題があったが、5Gを使って解決できる可能性がある。
自動車からオンラインで取得できる情報といえば、今のところはGPSを使った位置情報程度だが、ハンズオフドライブよりずうっと進化した自動運転を実現するためには、すべての自動車をネットでつなぎ、「リアルタイム」で「動画のような大きなデータ」を同時に送れるような仕組みが欠かせない。
つまり、「大容量」「低遅延」「同時多数接続」というスペックを満たした5G通信があって、初めて実現される。
そして、その通信インフラを格安で提供するのが、中国の通信大手、ファーウェイ。中国は同社に世界でその役割を担わせようとする一方、中国のプラットフォーム企業にシェアライドのアプリで支配的存在になることを託すことを考えているという。
仮にこれが実現すると、5Gによる「自動車産業革命」は、中国にとってはまさに革命でも、日本をはじめ世界の他の国々にとっては「自動車産業の危機」だ。米国が中国と激しくやりあっているのは、貿易不均衡や「通信スパイ」の問題だけでなく、それらは表面的なことで、深層にはこうした問題があるのだ。
これは「『5G革命』の真実」の一端。本書には、さらに多くの驚くべき「真実」が盛り込まれている。
「『5G革命』の真実 5G通信と米中デジタル冷戦のすべて」
深田萌絵著
ワック
税別920円