「東日本大震災の助け合いを思い出し、乗り切ろう!」
第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生氏の「五輪延期シナリオの検討~万一の備えとしての経済対策~」(2020年3月19日付)も、「今年7月開催の東京五輪こそがコロナ不況に対する最高の特効薬。延期すれば景気シナリオが狂う」という立場だ
具体的には東京五輪延期によってどうなるのだろうか。
「2020 年度に予定されていた需要拡大の見通しが狂ってしまう=下図1参照。3 月のESPフォーキャスト調査によると、2020 年度の実質成長率見通しは平均マイナス0.16%だった。この結果を延長して試算すると、見通しがマイナス0.39%ほど下振れして成長率見通しはマイナス0.55%まで幅が広がってしまう。また、新型コロナによる景気悪化は、すでに2019 年度の実質成長率をマイナス0.72%ほど押し下げるインパクトがある。ここに東京五輪延期が加われば、マイナス・インパクトはさらに大きくなり、マイナス1.11%という計算だ」
ただし、この試算には新型コロナが2020 年度の成長率に及ぼす悪影響は十分には織り込めていない。悪影響が長期化すれば、コロナ・ショックの惨禍はマイナス1.11%どころでは済まなくなる。
さて、こうした狂ってしまった景気シナリオを救済する経済対策にはいくら必要だろうか。熊野氏はわかりやすい概念図でそれを説明している=下図2参照。
2019・2020 年度における経済ショック・経済イベントの効果として大きいものを並べてみたのが図表2だ(カッコ内はそれぞれのインパクトの金額)。
(1)消費税増税の反動減
(2)コロナ・ショックの打撃
(3)東京五輪開催の刺激効果
(4)2019 年12 月に決まった大型経済対策の効果
の4つが挙げられる。
以前の新型コロナの影響がなかった段階では、(1)の増税のダメージを(3)の東京五輪開催と(4)の大型経済政策で相殺することが予想されていた。しかし、コロナ・ショックによって(2)が加わってトータルの成長見通しが大きく下振れする。そこへ五輪延期が加わると、成長シナリオはさらに下振れする。
経済はもともと成長するポテンシャルが備わっていて、その力によって経済成長は安定(プラス4.3 兆円の押上げ、0.81%)するのだが、今回のコロナ・ショックはそれをほとんど食い尽くしてしまう可能性がある。
それを実数で表すと、コロナ発生前は、トータルでプラス6.1 兆円だったのがコロナ発生後はプラス2.3 兆円に減少。そして五輪延期の時はプラス0.2 兆円まで小さくなる。「これは重大な危機だ」と熊野氏は危機感を抱く。
そして、こうアドバイスするのだった。
「東日本大震災を忘れるなと言いたい。今、私たちの目の前に広がっている光景は、実にネガティブな発想に基づく行動ばかりだ。困難に対して受け身の姿勢で、自分の身や立場を守ろうとする行動が目につく。しかし、震災の時はそうではなかった。被災者をみて『がんばろう、東北』『応援消費』『みんなで助け合おう』という気炎が各地で上がった。
日本各地のリーダーたちは、鮮明にそれを記憶しているはずだ。今のダメージは、ホテル・飲食店、レジャー、航空など交通といったセクターに集中している。感染が一定まで終息した後は、皆で宴会を開き、飲食店を活用しよう。旅行、レジャーも事業者を助けるつもりでやればよい。マクロの経済対策も必要だが、それ以上にリーダーが国を奮起させることがより重要だと思う」
(福田和郎)