【襲来!新型コロナウイルス】シンクタンクが読む東京五輪延期の経済損失 「大量の失業者」の危機か?

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欧米経済の悪化で輸出中心の大企業がピンチになる

東京五輪のメイン会場となる新国立競技場
東京五輪のメイン会場となる新国立競技場

   野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏の「東京五輪の延期と深刻な景気後退の可能性」(2020年3月23日付)は、まず「東京五輪が1年間延期されても、今年の国内景気がその分悪化するわけではない」と、クギを刺す。

   木内氏は、新型コロナ関連によって2020年GDPが押し下げられる影響を要因別に概算した(それぞれ1年間続く場合の影響)。

(1)インバウンド需要の落ち込み(海外観光客数前年比9割減)=マイナス0.81%
(2)中国経済の悪化(GDP4%下落)=マイナス0.24%
(3)中国以外の海外経済の悪化(GDP2%下落)=マイナス0.50%
(4)国内消費自粛(東日本大震災時の4倍)=マイナス1.67%
(5)東京五輪延期の影響=マイナス0.36%

   このうち、日本経済に大きな悪影響を及ぼしているのは、当初はインバウンド需要の落ち込みだったが、その後は中国経済の悪化、国内消費自粛へとその比重を移している。今後は、欧米を中心とした海外経済の深刻な悪化によるマイナス効果が強まる局面へと入っていく。

   木内氏はこう説明する。

「中国経済は4~6月期には回復が見込まれるが、米国では4~6月期の実質GDP成長率は前期比年率で2桁のマイナスが広く予想されている。ユーロ圏でも4-6月期は大幅なマイナス成長が避けられない。そのため日本の輸出環境は急速な悪化が避けられない状況だ。国内産業で、現在最も大きな打撃を受けているのは、インバウンド需要の減少や国内サービス消費の自粛の影響を受ける、観光業、宿泊業、アミューズメント関連などであり、中小・零細企業が中心である(航空業界を除く)」

   しかし、この先、国内での新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかってくれば、国内サービス消費の自粛の影響は徐々に和らいでいく。それに代わって、より大きな打撃を受けるのは、大企業中心の輸出関連産業となっていくというのだ。つまり、現在は中小企業がダメージを受けているが、4月以降は大企業が打撃を受け始めるというのだ。

   ところで、現在のコロナ禍をリーマン・ショック時と比較する見方が多いが、木内氏はこう分析している。

「リーマン・ショック後の世界経済を大きく特徴づけたのは、短期的な経済の落ち込み以上に、経済の潜在力の低下という構造変化が引き起こされてしまった点だ。それをもたらしたのは金融危機だ。金融市場や銀行の金融仲介機能が低下したことで、お金が円滑に回らなくなったためだ」
「今回は金融危機さえ回避できれば、短期的な経済の落ち込みはリーマン・ショック並みであっても、比較的早期に正常化しやすい。日本の場合、最も重要なのは銀行によるドルの調達に支障を生じさせないことだ。それは、日本の輸入の約7割がドル建ての契約・決済であるためだ。その結果、輸入業者は銀行を通じてドルを調達できないと原材料などの輸入が滞り、国内での生産活動に大きな支障が生じてしまう」

   だから、木内氏はこうアドバイスするのだった。

「これこそがリーマン・ショックの際に、震源地ではない日本の経済活動の落ち込みが、主要国の中で最も大きくなった理由である。ドルの安定確保は、日本にとってはまさに生命線なのだ。この観点から、日本銀行は銀行や企業のドル確保のために、最大限の施策を講じるべきだ」
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