新型コロナウイルスの感染拡大により、国内経済に大きなダメージが出ている。
企業業績の悪化よって、多くの企業から決算内容の悪化や2020年度の決算見通しが立てられないなどの声が出ている。そんななか、東証証券取引所は急激に業績が悪化した場合に株式の上場を廃止するルールを緩めるという。
決算は「いつでもよい」って......
2020年3月19日のNHKの報道によると、業績が悪化して債務超過に陥った企業の上場廃止ルールを、現在の1年の猶予期間から2年間に延長する特別措置を実施するという。なおかつ、決算に対する監査法人の意見表明(チェック)も必要なしとしている。
東証は2月10日に「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示実務上の取り扱い」を発表し、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた適時開示の実務上の取り扱いについて、さまざまな特別措置を打ち出している。
その内容は、「決算および四半期決算の内容の開示」については、
(1)決算手続き等に遅延が生じ、速やかに決算内容等を確定することが困難となった場合には、「事業年度の末日から45日以内」などの時期にとらわれず、確定次第で差し支えない
(2)大幅に決算内容等の確定時期が遅れることが見込まれる場合には、その旨(及び確定時期の見込みがある場合には、その時期)を適時開示する
―― としている。
また、「業績予想に関する開示」についても、決算内容の開示に際して業績予想の合理的な見積もりが困難となった場合や、開示済みの業績予想の前提条件に大きな変動が生じた場合などは、その旨を明らかにして、業績予想を「未定」とする内容の開示を行い、その後に合理的な見積もりが可能となった時点で適切にアップデートを行う、としている。
つまり、新型コロナウイルスにより業績に大きな影響を受けた場合には、決算は「いつでもよい」し、業績予想が困難であれば「予想しなくてもよい」という、非常に緩やかな措置だ。
これだけでも、決算手続き面ではかなり譲歩したものと思うが、そのうえ、「決算に監査法人のチェックを必要としない」となれば、行き過ぎとしか言いようがない。
監査法人のチェックのない決算内容は、極論をすれば「粉飾決算」を行っていても、投資家には判断しようがないことになる。
東証は「投資家を守る」立場にある
東証は投資家を守る立場にあるわけで、新型コロナウイルスの影響により決算手続きが遅れることは許容するとしても、決算の正確性を担保する監査法人の意見をしなくてもよいという措置は取るべきではない。
そのうえ、上場廃止ルールの期間延長を行うのであれば、相当に厳格な決算内容の調査・分析を行うべきだろう。それでなければ「事実上は倒産している企業」が投資家の投資対象として上場を継続することになる。
確かに、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の悪化は、企業にとっては予想外のことかもしれない。だが、企業は有価証券報告書にあるように「事業等のリスク」を開示している。
多くの企業では、この中に「災害」や「政治的混乱」など、当該企業に直接的に影響がなくても、経済的な混乱を招く要因を盛り込んでいる。新型コロナウイルスは、これらの要因と同様に経済を混乱させているわけであり、企業が事業リスクとして提示していた要因の延長上にある。
企業では、経済面での混乱が発生し、企業活動に影響が出る場合には、「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)を準備している。準備しておくべきであり、それによって危機の中でも最善の経営を行っていくべきだろう。
少なくとも、監査意見を受けないような信憑性に乏しい決算を行うことを許すべきではない。(鷲尾香一)