新型コロナウイルスの出現で、市場の雰囲気が一変してきました。
当初、感染は中国・武漢に集中していたため、米国株式市場は遠いアジアの問題ということでまったく無視して上昇していましたが、2020年2月21日に発表されたマークイット米国コンポジットPMI(購買担当者指数)が前月53.3から49.6へと急落。好不況の分かれ目である50を下回ると、ついに新型コロナウイルスの影響が米国経済にも及び始めたと市場も判断し、その日以来、株価が急落しました。
「経済が多少死んでもかまわない」
もう一つ大きなきっかけとなったのは、イタリアへの感染拡大です。イタリアに感染者が発生すると、欧州内は地続きなので、他の国へ瞬時に感染が広がることが容易に想像されました。欧州で感染が広がれば、米国にも新型コロナはやってきます。遠いアジアの問題が、一気に身近な問題に感じられるようになったのです。
この新型コロナは感染力が非常に強いという特徴があります。発病していなくても感染し、人にうつすことがあります。これでは、空港の検疫を簡単にすり抜けることができるので、防ぎようがありません。
この新しい敵にどのように立ち向かうのか――。致死率は1%程度なので、少し威力の強いインフルエンザと割り切って受け入れようという考え方の人もいます。
トランプ米大統領も当初はそのように考えていたようですし、専門家のあいだでも、最終的には封じ込めは不可能で、ゆっくりと多くの人が感染して免疫を獲得することで共存していくしかないと言っている人も多くいます。
しかし、多くの国は「封じ込め」を選択したようです。ウイルスを殺すことに決めた以上、経済が多少死んでもかまわないと言うことでしょう。
株価急落、本当の火ダネは米国にあり!?
多くの国が、感染者の入国を防ぐため、入国制限を始めましたが、次々と入国制限の対象国を増やしていくため、事実上ほとんどの国がお互いに「鎖国」しているのと同じような状況となっています。大きなコンサート、スポーツイベント、集会なども次々とキャンセル、欧州の一部ではレストランも営業が禁止されています。
これでは、経済が持ちません。おそらく、2020年1~3月期の国内総生産(GDP)は、各国軒並みたいへん悪い数字になりそうです。一部の国は、5%を超える大きなGDPの後退にさらされそうです。米ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、3万ドル目前のレベルから、2万円前後まで、乱高下を繰り返しながら下落しました。
経済へのショックは猛烈なものがあります。いつまでこのガマンが続くのか? トランプ米大統領は今年の夏までと示唆しましたが、そこまで経済が持つでしょうか。
リーマン・ショックから12年。その間、ずうっとブルマーケット(株価が上昇を続けている強気の相場)でした。知らないうちに「レバレッジ」がたくさんかかっています。少し株価が調整しただけだと思っていたら、これがきっかけで、大幅な調整局面がやってくるかもしれません。
そうなると、ある日ワクチンなどが見つかったら、株価も経済も元に戻るのか? 気になるところです。
しかし、そうはうまくいかないかもしれません。株価や経済の悪化は、新型コロナウイルスが直接の原因ではありますが、じつは本当の火ダネは、米国経済に知らず知らずに積み上がったレバレッジであり、これが崩れることで過去12年の調整局面が始まった、つまり数年は調整が続くことになるのかもしれません。(志摩力男)