すずらん通りの一角にある小さな藤本ビル。通りに面した赤い看板を目印に、細い階段をのぼる。壁中に貼られたロックミュージシャンのポスターに導かれるように3階に進むと、「ロック オン キング 」にたどり着く。
ロック音楽が流れてきそうな店内は、本屋らしい落ち着いた雰囲気に満ちている。本棚には邦楽・洋楽の音楽雑誌のバックナンバー、コンサートのパンフレットや楽譜が整然と並ぶ。本だけでなく、ツアーのグッズやなど品揃えは豊富だ。店主の今井宇志(いまい・たかし)さんが、快くインタビューに答えてくれた。
音楽雑誌に魅了されて
ロックオンキングが神保町で営業を始めたのは、2004年9月のこと。
「実家が古書店だったこともあり、自然と本を読むことが好きでした。音楽も好きで、1980~90年代のさまざまな音楽雑誌に夢中になりました」
と、店長の今井さんは目を輝かせて語る。
「音楽はライブで感じるもの。こういった音楽雑誌はアーティストの世界観をより深く探り、楽しませてくれるものだと思っています。そんな音楽雑誌のおもしろさを伝えたいなという気持ちで、このお店を始めたのかもしれません」
今井さんの背中を押したのは、音楽へのまっすぐな愛情と探求心である。その熱量は、今でも「ロック オン キング」の支柱になっている。
オススメの一冊は思い出深い「ROCKIN'ON JAPAN」
売れ筋商品は、クイーン初来日コンサートのパンフレット(1975年)だ。
「元々ファンの多いクイーンですが、再ブームの影響もあってクイーン関連のものは人気です。お店を始めた頃から、クイーンファンのお客さんにいろいろと教えてもらいましたね。商品も様々でファンクラブの会報なども取り揃えています」
エレファントカシマシの宮本浩司さんが好きだという今井さんのオススメの本は、デビュー当時のロングインタビューが掲載された「ROCKIN'ON JAPAN」だ。当時ほとんど無名だった彼らをピックアップしたのがこの雑誌で、今でも探す人が多いという。当時「ROCKIN'ON JAPAN」に魅了され、愛読者であった今井さんにとっても思い出深い貴重な一冊。
「店を始めて、お客さんとのやりとりからどんどん商品の幅が広がっていきました。お客さんに喜んでもらえるお店を目指しているうちに今の形になっていったんです」
今井さんのお話から感じるのは周囲から学ぶ柔軟で前向きな姿勢だ。そして話のうちに繰り返されるのは、周りへの感謝。
「お客さんや先輩方、『人とのつながり』でここまで来られたんだと思います。今は情報が溢れていてスピードも速い時代。お客さんもネットで調べてから来られる方が多い。だからこそ、この店ではそこから抜け落ちているような『おもしろさ』を拾い集めて、お伝えできればと思っています。これからもそういうアナログな、人間同士のコミュニケーションを大切にしたい」
と、ストレートな言葉でにこやかに語る。
ロック オン キングはこれからもお客さんのため、ロック音楽のために、商品の魅力を発信し続ける場所であり続けるのだろう。
今井さんのシャキッと伸びた背筋が、そう感じさせた。(なかざわ とも)