「質」の低下は否めない! 深刻化する、なり手不足が招いた地方「兼業」議員の不埒(鷲尾香一)

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   新型コロナウイルスの感染拡大で、全国的なマスク不足が深刻化するなか、地方議会議員による「軽率で議員とは思えない無分別な行動」が目立っている。

   2020年3月6日には、静岡県の諸田洋之県会議員が医療用マスクをネットオークションに出品して、1回当たり数万円から十数万円で落札されていたことが明らかになった。2月4日~3月6日の31日間にヤフーオークションを使って、医療用マスク2000枚セットを89セット販売し、売上高は888万円にのぼった。

  • 地方議員の3分の1は「無投票」で当選していた!
    地方議員の3分の1は「無投票」で当選していた!
  • 地方議員の3分の1は「無投票」で当選していた!

諸田県議はインクカートリッジ販売、高橋市議はコンビニ経営

   諸田県議はインクカートリッジ販売を行う「株式会社 来夢」を経営しており、出品したマスクは過去に中国から輸入し、在庫として保管していたものの一部で、

「転売品ではなく、問題ない。出品時は1円からスタートしている。落札は相場価格だ」

とコメントしていた。

   しかし、地元の静岡県焼津市では、現役の県議がネットオークションにマスクを出品して利益を得ていたことで、

「県議という立場をまったく理解していない。医療機関などマスクが必要な人たちに支援や寄付するなどを考えるべきだ」

と、大きな反発を呼んだ。

   3月10日には、青森県五所川原市の高橋美奈市議が、自らが経営するコンビニエンスストアに入荷したマスクを、同じ会派の議員に優先的に販売していたことが判明した。

   高橋市議は3月上旬、五所川原市内で経営する4店舗のコンビニエンスストアに入荷したマスクおよそ30セット、を同じ会派の市議5人に通常価格で販売した。店の従業員にはマスクは売り場に出さず、客には「在庫切れ」と答えるように指示していた。

   高橋市議は、

「軽率な行動だったと反省しています。これから市議会議員として自覚を持って活動をしていくうえで信頼を取り戻していきたい」

と、優先販売の事実を認めて謝罪している。

   しかし、地元では、

「コンビニ経営者という立場を使い、身内を優先してマスクを販売するのは、許しがたい」

との声が相次いでいる。

   諸田県議、高橋市議とも地方議会議員だ。国会議員や公務員は、他の職業との兼職を禁止されているが、地方議会の議員は禁止されていない。こうした規定の緩さが、「今回のような、議員にはあるまじき無分別で軽率な行動を許している」との指摘もある。

なんと、県議の3分の1が無投票で「当選」する現実

   だが、根本的な問題点は別のところにありそう――。それは、地方議会の議員の「質」の低下だ。

   少子高齢化や人口減少の影響もあり、地方議会の議員のなり手不足が深刻化している。加えて、地方議会に対する地元住民の関心が低下していることで、地方議会議員選挙の投票率が低下し、無投票当選の割合が増加しているのが現実だ。

   つまり、政策もなく、ポリシーも持たず、政策論争もできない地方議会議員が多く誕生しているということ。立候補すれば当選するという状況で、地方自治を担う議員の能力も人材も不足しているのだ。

   総務省の「地方議会・議員のあり方に関する研究会」の資料によると、地方議会選挙の投票率は、以下のようになっている。

 <都道府県議と市区議の投票率推移>(%)
      1999年 2003年 2007年 2010年 2015年 2019年
都道府県議  56.70   52.48  52.25  48.15  45.05  44.02
市区議    57.02  52.94  53.37  48.93  46.46   44.45

   2010年の地方議会選挙で投票率は50%を割り込み、直近の2019年の選挙では45%を割り込んでいる。地方の住民で投票に出かけているのは、住民有権者の半数以下にまで落ち込んでいる。

   これに伴い、無投票当選する議員の割合が増加。無投票当選の状況は、以下のように推移している。

 <都道府県議と市区議の無投票当選の推移>(%)
      1999年 2003年 2007年 2010年 2015年 2019年
都道府県議  16.8   19.5   16.4   17.6   21.9   26.9
市区議    0.4   2.6    1.7   1.3    3.0   2.5

   市区議では無投票当選の比率は低いものの、都道府県議では今や議員の3分の1近くが選挙により選ばれたわけではなく、無投票で立候補しただけで当選しているのが実態だ。

   2018年12月31日時点の全国 815 市区議会における議長と議員の平均報酬月額は、議長が51万7100円、議員が42万1800円。約130万円の報酬月額がある国会議員に比べれば、確かに少ないものの、平均的なサラリーマンと比較しても遜色ない水準だろう。 都道府県議に至っては、平均月額報酬は81万3000円と平均的なサラリーマンよりもはるかに多額の報酬を得ている。

   こうした状況にありながら、他の職業との兼職が許されているわけだ。「選挙で落ちれば無職」ということもあるかもしれない。しかし、無投票で当選している都道府県議が3分の1もいる。地方議会議員であれ、公職に携わるものとして相応の覚悟が必要であり、議員としての理念や政策を持っていなければならない。

   地方自治を司る地方議会議員が役割を十分に果たせないのであれば、地方議会議員のあり方について、本格的に見直す必要があるのではないだろうか。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
姉妹サイト