外国人労働者は「人手不足」の調整弁か?
外国人労働者の実質的な受け入れは、1990年ごろから始まった。その時から動機は「人手不足」であり、これが目くらましとなって、議論が置き去りにされてきた経緯がある。
バブル景気による人手不足を背景に、1990年に施行された改正入国管理法では、「定住者」という就労に際限のない在留資格が設けられ、南米からの日系人労働者が増えた。
しかし、リーマン・ショック(2008年)で景気が後退。一時は外国人労働者への熱も冷めたが、東日本大震災後の復興事業や東京オリンピック・パラリンピックの開催決定による特需で、人手不足が再び顕在化。外国人労働者への注目度も再び増してきた。
そして、政府が「高度人材の優遇制度」の導入、「高度専門職」の在留資格の新設(いずれも、2012年5月)、14業種で「特定技能」の在留資格の新設(19年4月)と、矢継ぎ早に門戸を広げ、「特定技能」では2024年までに34万5000人あまりの外国人労働者の受け入れを計画している。
日本国民にとって、移民の受け入れは、人手不足解消への寄与などの「良い面」がある。しかし、「思いもよらぬ変化があって弊害を伴うかもしれない」。そういった「悪い面」(懸念)があるとしたら、たとえば......。
データの分析からは、移民の増加によって凶悪犯罪が増えるという明白な証拠は見つかっていないようだが、それでも凶悪犯罪が増えるのではと心配する人たちがいる。
また高齢者世帯、小さい子どもがいる世帯などからは、米国などで確立されている家事代行サービスや育児支援サービスが利用しやすくなるという期待がある。
それにより女性の社会進出が進むのではないかという見方があったり、さらには移民が増えることで、少子高齢化で進む労働力不足解消ばかりか、貿易振興や海外からの直接投資の流入が加速して、生産性の向上や、経済が活性化する可能性があるため、将来的に減るとみられる貯蓄を押し上げる効果が期待できたりするかもしれないともいう。
こうしたことは一見いいことのように思えるが、移民が増えたことで、私たちの仕事が奪われたり、賃金が下がったりすることが懸念されている。
しかし、移民が労働市場に与える影響については、はっきりとした結論は出ていない。税金や社会保障の負担が増えるかどうかも不明という。これまでの調査や研究、議論の中で明らかでない論点については、相反する分析結果を引用しながら、日本の場合、「良い面」と「悪い面」のどちらの可能性が高いかを考察している。
「移民の経済学 雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか」
友原章典著 中央公論新社
税別820円