中国・武漢市を発端とする、新型コロナウイルスが猛威を振るっている。
この新型コロナの感染拡大を受けて、日本を含む世界各国が、海外からの渡航制限に踏み切るなど、とりわけ物流の観点から世界経済への長期的な悪影響が懸念されている。
そうしたなか、2020年3月9日の株式市場は、世界各地で大暴落を記録。米ニューヨークでは「ブラックマンデー」(1987年10月19日の月曜日に起こった大暴落)の再来との声も飛び交ったとされる。
暴落で「逆バリ」は意外と多い?
新型コロナウイルスの感染拡大の影響から逃れられなかった点では、株式市場も例外ではなかった。
2月17日に米アップルが2020年1~3月期の売上高目標の達成見通しを撤回すると、次第に株式市場は世界的に下落へと転じた。日経平均株価も、2月21日の終値が2万3386円であったのに対し、3月7日の大引けで2万749円を付けた。わずか2週間の間に、10%を超える下落を記録したことになる。
その後、日経平均株価はさらに下落し、翌営業日の3月9日には2万円を割れ。また、同日の午前中にドル円相場が一時1ドル=101円台になるなど、記録的な株安・円高となった。
ところで、これは筆者の知人ら数名から聞いた話だが、コロナ・ショックの襲来で、ふだんは株式市場を気にしない人のあいだでも、日経平均株価の急落が話題となっているようだ。特筆すべきなのは、知人で実際に株式を売買した人のほとんどが「日経平均株価が下がってきたので、途中で買った」と、話していたことだ。
筆者は個人的にシステム売買戦略を開発していて、その戦略は「空売り」を示していた。そのシステムは開発段階にあったため、実際に売買できていなかったのは残念だが、自分を除く全員が「買った」と言ったので、筆者が困惑したのは言うまでもない。
「株価が下がってきたから、値ごろ感が出てきたので『買い』」という戦略は、一般に「逆バリ」と呼ばれている。
「逆バリ」は「値ごろ感」を買うという、人の感情からすると抵抗感の少ない売買手法である一方、今回のコロナ・ショックのような大相場では、あまりにも長期間にわたって下落が続くため、短期間の間に損失が積み重なってしまうという問題がある。
一方、「株価が上がってきたので、さらに値上がりすると見込んで『買い』」とする手法を「順バリ」と呼ぶ。「逆バリ」と「順バリ」は対をなす戦略だが、一説によると日本の個人投資家は圧倒的に「逆バリ」が多いそうだ。
海外投資家は「逃げ足」が早い!
逆バリは株価が狭い値幅を上下するような状況では有効性が高いものの、市場に大きなトレンドが出ていると、損する可能性が高くなる。
それにしても、なぜ日本の個人投資家は逆バリ派が多いのだろうか。コロナ・ショックのような下落相場で、利益を得るか、せめて大きく損しないためのヒントはあるのだろうか――。その謎を解明すべく、筆者は東京証券取引所(日本取引所グループ)が毎週公表している「ある指標」に着目することにした。
大相場を判別するための指標として利用できるものの一つに、「投資主体別売買動向」がある。「投資主体別売買動向」とは、投資家(法人、個人、証券会社、海外投資家)別にみた、日本市場の株式取引状況をまとめた一覧表だ。これは週ごとにまとめて公表され、公表タイミングは翌週の木曜(第4営業日)である。この指標において特に重要視されるのは、「海外投資家」の売買状況だ。
経験的に、「海外投資家」は上昇相場の早い段階で「買い越し」に転じ、下落相場の早い段階で「売り越し」に転じることが多い、とされている。
月次の売買動向を確認すると、2019年は1~3月が売り越し、4月が買い越し、5~9月が売り越し、10月以降が買い越しだった。
この動向は、2019年初めに日経平均株価が上昇を見せたのと反しているものの、その後は日経平均株価の値動きと概ね一致している。ちなみに2020年は1月、2月ともに売り越しだった。
また、週次の場合、2020年2月に海外投資家が「買い越し」だったのは第1週のみで、それ以降は「売り越し」だった。今回のコロナ・ショックで株式市場が下落へと転じたのは2月第3週以降で、海外投資家の逃げ足の早さがうかがえる。
「投資主体別売買動向(または、投資部門別売買動向)」は、公表まで4営業日のタイムラグがある点で短期売買には向かないものの、より長期的な目線で取るべきポジションの方向性を知るには、役立つことがあるのかもしれない。
証券会社によっては、自社のホームページで「投資主体別売買動向」を公開していることもある。興味がある人は調べてみると、おもしろいだろう。(ブラックスワン)