近年は、地震や台風で一戸建てばかりではなく、先端的なマンションでも被害が相次ぎ、住まい選びに微妙な影響を及ぼしている。東京や周辺地域での住まいの購入は以前から、全国のほかの地域と比べると選び方や買い方に独特のポイントがあるのだが、自然災害の増加で複雑さを増しているそうだ。本書「東京で家を買うなら」は、経験豊富な不動産コンサルタントが、複雑化する家選びのポイントを、わかりやすく解説。住まいの購入を計画している人には、必読といえる一冊。
「東京で家を買うなら」(後藤一仁著) 自由国民社
無防備な住宅購入に臨むのはリスク
著者の後藤一仁さんは、東京を中心に30年以上、不動産の購入、売却、賃貸、賃貸経営のサポート、コンサルティングのほか、セミナーや個別相談などを手がけてきたというベテランコンサルタント。本書は、2014年に同じタイトルで刊行され増刷を重ねるなど大きな反響を呼んだ書籍の新版だ。
初版からこの新版までに、不動産を取り巻く環境は変化し続け、金利はさらに下がり、マンションをはじめとした不動産価格は上昇。また、2016年の熊本地震では観測史上初めて同じ場所で「震度7」が続けて2回発生し、「新・新耐震設計基準(2000年6月以降の建築確認)の建物にも倒壊があった。さらには2018年と19年に各地で起きた大規模な水害では、予想されていなかった浸水・冠水被害が出た。「これからは、社会、経済、自然環境などがさらに大きく変化していく中で、正しい知識を持たずに無防備な住宅購入に臨むことはかなりのリスクになる時代になった」として、改訂することにしたという。
新しい改訂版では主に、最近の「価格と金利」の状況下で住宅購入をどのように判断したらよいかについてや、水害、地震に対する災害安全性について加筆。また、人口減少や高齢化に伴い、取り組む自治体が年を追って増えているという立地適正化計画などについても言及している。
史上最低の住宅ローン金利を利用して......
2012年12月の第2次安倍政権発足後からスタートしたアベノミクス、翌13年4月からの日本銀行の大胆な金融緩和で、東京の新築マンションの価格は都心部を中心に上昇。13年9月に東京オリンピック開催が決定してさらに加速した。19年以降、過去最高値を更新しているという。また、中古マンションも2013年から6年連続で価格が上昇。この間、首都圏の成約件数では新築マンションの供給戸数を上回る年もあった。
中古の戸建て住宅もマンションほどの上昇率ではないにしても、2014年から価格は上昇傾向。土地価格(公示価格・住宅地)においても、平米単価はやはり14年から上昇傾向が続いている。
新築マンションの価格高騰は、東日本大震災の復興や東京オリンピック・パラリンピックに向けたインフラ整備のための人員不足による人件費の上昇、資材や工事費の上昇などのほか、住宅ローン低金利の影響などがある。低金利により住宅ローン返済額が抑えられて、より高価格の物件が購入可能になり、価格が上がったというわけだ。中古マンションの価格上昇は、新築物件の価格が大幅に上昇し、予算が合わなくなった層が中古物件にシフトしたためという。
住宅ローン金利は、この10年くらいに、長期固定金利の「フラット35」の場合で約2%低下。2009年5月に3.07%だったものが、19年10月には1.11%になった。「仮に4000万円を金利3.07%で借り入れた場合と金利1.11%で借り入れた場合を比べると、月々の返済額で4万530円、返済総額で1702万2813円、後者のほうが少なくなる」
こうしたことから、10年前には手が届かないと感じた物件も、手ごろな感じとなり購入者が増え、価格が上昇する要因にもなっている。その半面、現在は史上最低金利であることは間違いないこと。「住宅ローンを利用して住宅を購入しようとしている人にとっては、価格が妥当でよい物件が見つかれば、有利な時期」と、著者は指摘する。
「物件を見る目」が重要
「しかし......」と、著者は続ける。これからの日本は超高齢社会、人口・世帯数の減少、単身世帯の増加、空室増加の本格化、建物の老巧化、さらには地方・郊外と都心の格差問題など、さまざまなことが起きていて、価格が上がっている物件や地域がある一方、下がり続けている物件や地域もあるという。おトクなローンに踊らされて調子に乗ってはいけないのだ。
「マンション購入が初めての方が『今、金利がとても低いからマンションは買い時。すぐにでも買った方が得』などの不動産業者の言葉や記事を鵜呑みにして、いいと思った物件を買ったら、入居後何らかの理由で売却せざる得なくなり、自分で予定した額よりずっと売却価格が低かったなどという声はあちこちから聞こえてくる」
金利や住宅ローンなどが関連する経済、少子高齢化が顕著な社会、気候変動も合わせて、これから激変が予想される時代のなかでは、不動産購入でも以前にも増して「物件を見る目」が重要になってくる。どんな家をいつ、どこに、いくらで、どのように買うかによってその後の人生の明暗が変わってくる可能性があることを知るべき――というのが、著者が本書に託した眼目だ。
家選びの戦略の立て方、資産となる家を持つ勧め、そして、どうやって資産価値が下がらない家を選ぶかなどを述べ、災害リスクを最大限に軽減する方法にも相当のページ数を割いている。終章では、具体的に「東京のおすすめ市区、沿線、エリア」の案内も添えられている。
「東京で家を買うなら」
後藤一仁、自由国民社
税別1500円