新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、外国為替市場では急速な円高が進行している。2020年3月10日昼に、1米ドル=103円台前半で推移。前日に、1年2か月ぶりに節目の2万円台を割り込んだ日経平均株価も続落している。
東日本大震災級、リーマン・ショック級などといわれる株価暴落とその背景にある急激な円高に、マネックス証券のチーフ・FXコンサルタントの吉田恒氏が、「円急騰の理由と今後のシナリオ」と題する緊急レポートをまとめた。
「1米ドル=100円割れ」に向かっている可能性
【ポイント】
・「コロナ・ショック」が拡大する中で、一時的ではなく、継続的な株安、リスクオフ局面に急転換した可能性。その中で米ドル円は、長く続いた小動きが終わり、その反動もあって大相場へ急転換した可能性がある。
・長期保ち合い下放れで米ドル円は100円割れへ。ただ、生産者物価購買力平価95円以下はあっても「下がり過ぎ」ではないか。
・継続的なリスクオフなら通貨の選択は比較的低金利通貨の売り。
週明け早々、米ドル円が一時102円割れとなるなど、為替相場が軒並み暴落した。この主因は、長期三角保ち合い(チャートの形が大きな値幅が徐々に小さく狭まっていく、三角形のようになる状態)の下放れ(相場が一気に下落すること)だろう。
前週1米ドル=106円を割り込んだことで、2015年から続いてきた長期三角保ち合いを下放れた結果となった=図表1参照。長く続いた保ち合いで蓄積されたエネルギーが、一気に発散されることで、経験的には保ち合い放れ後は一方向に大きく動きやすい。
【図表1】米ドル/円の月足チャート(2015年~)
長期保ち合いブレーク後は、教科書的には保ち合いスタート水準に戻るとされる。保ち合いの下値スタート水準は、2016年6月の98円。その意味では、保ち合い下放れで、米ドル円は100円割れに向かう動きになっている可能性がありそうだ。
では、100円割れから、米ドル円はさらにどこまで下がる可能性があるのか。米ドル/円はいわゆるアベノミクスで100円台を回復して以降は、日米の生産者物価の購買力平価を下限、消費者物価を上限としたレンジを中心に推移してきた=図表2参照。
【図表2】米ドル円と購買力平価 (1973年~)
生産者物価の購買力平価は足元で95円程度。これが現在の米ドル円の「実力」なら、かりに95円を下回る米ドル円の下落があっても行き過ぎで、一時的にとどまる可能性が高いのではないか。