【襲来! 新型コロナウイルス】突然の休業どうしよう...... 助成金、フリーランスや個人事業主は対象外、会社員も放ったらかしでは「補填」されない

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   新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための臨時休校が、2020年3月2日から全国で始まったのに伴い、厚生労働省は、仕事を休んだ従業員に休業手当等を支払った企業を対象に、1人当たり日額上限8330円の助成金を出す、新たな制度の概要を発表しました。

   正規雇用、非正規雇用を問わず助成する一方で、フリーランスのスタイリストやカメラマンなどの個人事業主や、自営業者の保護者は対象外となるようですが、本当にそうなのでしょうか?

   今回はこちらのご相談を、グラディアトル法律事務所の「闘う弁護士」、磯田直也先生に聞きました。

  • 新型コロナウイルスで休業、お給料は減ってしまうの……
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労働者が会社に「休業手当」を請求する必要がある

闘う弁護士先生

   新型コロナウイルス感染症対策として政府が発表した助成金制度は、すでに実施している「雇用調整助成金」の助成対象となる事業者(会社)を拡大するという内容の、特例措置にあたります。

   一般に、売り上げの大幅な減少などによって、それまでの雇用を維持できなくなった会社は、事業活動を縮小することになりますが、日本では労働基準法などの法律の規制により、労働者を解雇することは容易ではありません。

   そこで事業者は、労働者を解雇するのではなく、労働者との雇用関係を維持したまま休業や教育訓練、出向を命じることによって業績の悪化を防ぎます。

   「雇用調整助成金」の制度は、事業者がそのような一時的な雇用調整によって、従業員の雇用を維持した場合に休業手当や賃金等の一部が助成されるという仕組みです。この制度は、労働者の失業の予防や雇用の安定を図ることを目的として、雇用保険法を根拠に定められています。

   そのため、雇用調整の助成金を受けるためには、本来は会社に計画届の事前提出が求められています。今回の特例措置では、事業所設置後1年以上が経過している必要がありますが、そういった要件が緩和されています。

   また、生産指標や雇用指標などの統計の確認についても、助成を受けやすい方向で要件が調整されています。これまでも、大型台風や豪雨災害、地震の被害地域において、同様の特例措置が採られたことがあります。

   助成金は、大企業の場合は休業手当等相当額の2分の1、中小企業の場合は3分の2(いずれも対象労働者1人1日当たり 8330円が上限)の金額が支給されます。

   制度上は、会社が労働者に支払う金銭の一部を政府が助成することになりますから、労働者が直接助成金を受け取れるわけではなく、会社が休業手当等を支払わない場合に、労働基準法26条に基づいて、労働者が会社に対して休業手当を請求していく必要があります。

会社員と同じように働いているフリーランスも助成されない可能性大

   その一方で、この雇用調整助成金は労働者を雇用している会社に対して助成されるものですから、フリーランスや個人事業主に対して助成されることはないほか、会社が雇用関係にないフリーランスや個人事業主の方に対して支払う金銭等についても助成されないことになります。

   では、フリーランスや個人事業主として、会社と業務委託契約などを結んでいた場合は、会社員と同様に助成金をもらうことはできないのでしょうか?

   おそらく、多くのフリーランスや個人事業主の方が、そう思ったのではないでしょうか。

   前述のように、雇用調整助成金は、「労働者」の雇用維持を図った会社を対象に助成します。法律上、労働者に当たるか否かは、実態として使用者(会社)の「指揮命令の下で労働し」、かつ、賃金を支払われていると認められるか否かにより決せられると考えられています(労働基準法9条、労働契約法2条1項)。

   一般に、会社が活動するに当たり必要な業務は、「雇用契約」、「派遣契約」、「業務委託契約」の3つの契約形態で実現されます。このうち雇用契約と派遣契約は、会社からの指揮命令を受ける立場となるものですが、業務委託契約は原則として事業者の指揮命令に服する立場とはなりません。

   そのため、仮にフリーランスや個人事業主の方が、企業と業務委託契約を結んでいたとしても、「労働者」に当たらないことになり、支給の対象とはならないでしょう。

   さらに、フリーランスや個人事業主が、契約している会社の社員と同様に出勤している場合でも、「労働者」には当たらないのでしょうか?

   フリーランスや個人事業主の方が、契約している会社の社員と同様に出社するように指示されていて、勤務場所や勤務時間が拘束されている場合や、「その会社の仕事しかできない」といった専属性がある場合、報酬が時間給や日給で与えられていて仕事の成果によって定められていない場合などには、業務委託契約という契約の形式に関わらず、実質的に労働者であると判断されることがあります。

   しかし、助成金が受給のための手続きをした会社に対して支給されるものである以上、雇用契約ではなく、あえて業務委託契約を締結しているにもかかわらず、フリーランスや個人事業主の方を会社の指揮命令の下で働く労働者であるとして会社が受給手続きをすることは考えづらく、会社はこれらの方については助成金の支給対象の労働者には当たらないことを前提に手続きすることになると考えられます。

   具体的には、たとえばフリーランスのライターやカメラマンで、会社から取材や撮影の仕事を受注していたケースで、新型コロナウイルスの影響でキャンセルになってしまった場合でも、助成金で対応してもらうことはできないでしょう。

弁護士だって、困っている?

   じつは、弁護士も困っています。弁護士も個人事業主のケースが少なくなく、今回の助成金の対象外ですから、相談者が減ってしまうと生活が苦しくなる方が増える可能性があるわけです。幸いにして、弁護士界では今のところ、深刻な影響は生じていないように思われますが、今後何らかの影響が出てくる可能性は否定できないところです。

   雇用調整助成金は、会社が雇用する労働者の数に応じて日頃から負担している雇用保険料や、労働者の給与から控除されている雇用保険料を主な財源として支給されます。フリーランスや個人事業主の方は、これらの雇用保険料を負担していないわけですから、雇用調整助成金から何らかの支給を行えば、保険料を負担している会社や労働者から批判が出ることは想像に難くありません。

   それもあって、フリーランスや個人事業主の方へ助成金を支援することが難しいように思われます。

   ただし、安倍晋三首相は3月3日、フリーランスを含む個人事業主についても、支援する考えを示しており、政府は経営相談窓口の設置や緊急貸付保証枠として5000億円を確保する措置を講じる方針だとされています。

【参考リンク】「安倍首相『フリーランス等も支援』休業補償」(日テレNEWS24 2020年3月3日付)

   もっとも、働き方改革で多様な働き方を推奨し、推し進めるのであれば、フリーランスや個人事業主の方を経済的に支援する新たな仕組みをつくるための議論は、さらに積極的に進められていくべきではないかと感じるところです。(磯田直也)


◆ 今週の当番弁護士 プロフィール

磯田直也(いそだ・なおや)
弁護士法人グラディアトル法律事務所所属弁護士
広島大学法学部卒業後、大阪大学大学院高等司法研究科修了。「交通事故」「労働」「離婚」「遺言・相続」「インターネットトラブル」などを得意分野とする。


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グラディアトル法律事務所
平均年齢30代前半の若手弁護士の精鋭集団。最新の法律知識やツールを駆使し、それぞれの得意分野を生かしながら、チーム一丸となって問題解決に取り組む。取扱分野は多岐にわたり、特殊な分野を除き、ほぼあらゆる法律問題をカバーしている。
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