新型コロナウイルスの感染拡大で、IT関連を中心にリモートワークに切り替えると発表している会社が増えています。そうした中で、リモートワークがこのまま日本の会社でも有効的に使われるようになれば、という風潮もまた見受けられます。
リモートワークの主なメリットとしては、通勤がなくなったり、コスト削減が可能になったり、業務の生産性向上などがよく挙げられています。その半面、デメリットといえば、コミュニケーションがとりにくくなるといった程度で、デメリットよりもメリットのほうがあるとみられているようです。
しかし、副業や個人事業主でない場合、日本でリモートワークを推し進めるには、じつはまだまだ課題がありすぎるようです。
「自宅」勤務には、さまざまな「誘惑」がある
まず、社員に対する評価が難しくなります。
社員が社内で働いている場合は、何時から何時までという勤務時間が決められており、ずうっと上司が「監視」できます。
しかしリモートワークは、そうはいきません。社員は自宅や近くのカフェなどで仕事をすることになるため、何時から何時まで働いたのかということを確実に把握できる術がなくなってしまうのです。
たとえば、「10時~18時まで仕事をすること」と決められた場合でも、ずっとオンラインで社員全員の顔を映し出しながら作業させるような方法を取らなければ、しっかりと把握ができないわけです。
さらには、新型コロナウイルス対策で小さなお子さんが外出できない場合、お子さんの面倒をチラチラ横目で見ながら仕事を進めるわけですから、集中できずにかえって非効率になりかねません。「今が特別」のように思うかもしれませんが、自宅にいるだけでも、さまざまな「誘惑」があるものです。
もちろんノルマを達成すれば、どのような仕事のスタイルであっても問題ないというように設定できる業務の部署であれば、監視せずとも評価しやすいのですが、ほとんどの部署はそのようになっていません。
そもそも、会社の仕事とは、一人の社員が自分勝手に仕事をするようなことのほうが少ないのです。
さらに当然、残業に関する取り決めも変わってくることになりますね。
自宅のパソコンで仕事する際の注意点とは?
リモートワークには、ネットワークの環境整備が必要不可欠です。
最近は自宅にWi-Fiを繋いでいる方も増えているとは思います。しかし、すべての社員がWi-Fiを繋いでいるわけではありません。物件によっては、繋ぐだけでもそれなりの金額がかかったり、自前のパソコンを持っていない場合であれば、購入しなければいけなくなります。
もちろん、その費用を会社が賄うということであれば、いいとは思いますが、そのパソコンを使って、業務以外のことはしていけないなどのルールも必要となりますので、そう簡単ではないと思います。
また、5G(次世代通信システム)対応のスマートフォンがどんどん発売され、通信速度が速くなれば、リモートワークもスムーズになると思われますが、5G対応であったとしても、設備が整えられていないとあまり意味がありません。
一般の人が5Gの恩恵を受け始めるのは、あと2~3年はかかるのではないかと考えられています。
最も問題になるであろうことは、やはりセキュリティ面です。
多くの企業がノートパソコンの社外への持ち出しを原則として禁止している一方で、持ち出し専用のノートパソコンを用意したり、事前に届出制にしたりすることで社外への持ち出しを許可している会社もあります。そこで懸念されるのが、パソコンの盗難や紛失。フリーWi-Fiなどの外部ネットワークを使うことによる情報漏えいもないとは言いきれません。
さらには、会社支給のパソコンではなく、自宅のパソコンでの作業を余儀なくされる場合、プライベートでログインするユーザーとは別のユーザーでログインする必要がありますし、ウイルス対策ソフトを入れたり、OSのアップデートを定期的に行ったりすることも重要。もちろん、ファイル交換ソフトを利用しない、危険なサイトへはアクセスしないといったことは言うまでもありません。
万が一、会社の機密情報が流出してしまったような場合には、せっかく必要性や効率を考えてリモートワークが実施されたにもかかわらず、かえって業務に支障をきたしたり、会社に損害を与えたりすることにもなりかねません。
現状は新型コロナウイルスの感染拡大による大混乱の最中にあります。これをきっかけに、リモートワークが普及する可能性は十分にあると思いますが、その一方でスムーズな運用ができるようになるには、環境整備にかなりの時間がかかるとも思われます。飛びつく前の、準備が大切です。(久原健司)