2020年1月、日本銀行や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)など6つの中央銀行が、「デジタル通貨構想」をぶち上げた。各国の中央銀行が通貨のデジタル化に向け大きく動き出した背景の一つには、米フェイスブック(FB)が昨年6月に発表したデジタル通貨「リブラ」の発行計画がある。
世界の人口の3人に1人の割合で存在するFBユーザーがリブラを使うことになると、各国で銀行経営に深刻な打撃を与え、金融政策の効果を損ねることになりかねない。
「決定版 リブラ 世界を震撼させるデジタル通貨革命」(木内豊英著)東洋経済新報社
「ビットコイン」とは別物
2019年10月に開かれた「20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議」では、リブラなどのデジタル通貨について厳格な規制を導入することで合意。FB側は「当局の承認を得られるまでは発行しない」ことを表明した。
しかし当初は2020年前半としていたリブラの発行時期は現在、不透明になっている。その一方で、本書「決定版 リブラ 世界を震撼させるデジタル通貨革命」によれば、リブラ計画がぶち上げられたことで、デジタル金融の新たなムーブメントは強さと大きさをグンと増し、ついに各国中銀も動かざる得なくなったという。
リブラ計画が明らかにされると、以前から存在していた仮想通貨と同一視されたが、実際にはまったく異なる。ビットコインに代表される従来の仮想通貨は、投資・投機の対象として関心が高く「通貨」としての支払い手段としての利用はかなり限られている。価格変動率(ボラティリティー)が非常に高いためだ。
販売店がビットコインで代金を受け取り、現実の「円」に換えるまでの間にビットコインの価値が円に対して下がれば損失が生じる。そのため、支払い手段としては用いられないのだ。
これに対してリブラは、投資や投機の対象としての利用を意図しておらず、もっぱら支払い手段として利用されることを目的に発行される。
その価値は、主要法定通貨のバスケットと連動して決まる仕組み。新規発行、消却(買い入れ)は、さまざまな企業、団体が出資してスイスに設立されたリブラ協会が担う。また、取引認証は、ビットコインのような不特定多数による非許可型ブロックチェーンではなく、同協会出資者が参加した許可型ブロックチェーンで実施される。
リブラの価値は、米ドルやユーロ、円、英ポンドなど複数通貨の価値の変動に応じて変化する。このため、ドルに対する円のように、他の一つの通貨との間の交換レートの変動より幅は小さくなる。法定通貨との間の価格変動を小さくする仮想通貨はすでに多く生み出されており、それらは「ステーブルコイン」と呼ばれる。ステーブル(stable)は「安定した」という意味。リブラが発行されれば、ステーブルコインの代表格になるとみられる。