東京オリンピック・パラリンピックの選手村に近い東京・晴海に本社を構える、デジタルマーケティングの株式会社メンバーズ。大会開催時の混雑に備えて、2019年夏に大々的にテレワークの実証実験を行った同社が、そのためにまとめた詳細なマニュアルと、実験の報告書をインターネットで公開した。
政府による企業のテレワーク導入推進の要請を受けて、テレワークの導入が必要な企業や団体に役立てもらう。
テレワークの導入には入念な準備が必要
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、多くの企業がテレワークの導入に積極的だ。日本経済団体連合会の中西宏明会長によると、会員企業を対象に行った調査では7割以上がテレワークを実施しているという。中西会長が3月4日、小池百合子東京都知事との会談で明かした。
インターネットの普及やITの進化が著しい現代では、オフィスワークからテレワークへの切り替えは容易にもみえるが、メンバーズが公開した「テレワーク導入マニュアル」や「テレワーク実証実験報告書」によれば、現実にはそう簡単なものではなく、入念な準備が必要なことがわかる。すぐには対応できない企業も少なくないはずだ。ネット上には、そうした企業の従業員からとみられる不満の声が寄せられている。
メンバーズは2019年7月22日から約1か月間をテスト期間として、関係省庁や東京都などが連携して実施した「テレワーク・デイズ2019」に参加。テレワークの課題把握と必要な対策の検証を行い、東京で勤務する約470人の社員が実証実験を行った。
マニュアルはこのために作成したもので、テレワーク実施時に社員が遭遇する可能性がある課題などを想定した実施ルール集。社内用140ページのものを今回、「公開版」として80ページに編集した。
報告書は、社員アンケートのほか、勤務実態調査としてテレワーク期間中の残業時間及び稼働率の推移、テレワーク制度全体の収支状況などにについて詳しく述べられている。 また、反省点が具体的に指摘されており、着手まもない企業や、これから着手を考えている企業にとっては大いに参考になりそうだ。
イスやデスクの高さまでガイドしている
テレワークというと、一般的には自宅でパソコンなどを使って会社の業務を行う、在宅勤務を想定している。メンバーズのマニュアルでも、「原則、全員が在宅勤務」として「勤務に適した環境を整えましょう」とある。ただ、通勤しなくてもよいだけではなく「環境」を整えなくてはならない。
環境整備は、従業員だけではできないので、会社の支援が必要だ。たとえば会社のサーバーに接続して使用するシンクライアントパソコン、テレビ会議用のマイク、ヘッドセットなどを本社側でこれらのリモート接続を可能にする機器の用意が必要だ。
メンバーズのマニュアルでは、業務効率を考え、体格にふさわしいイスやデスクの高さなどまで、ガイドしている。
「在宅勤務」といっても、自宅を仕事場にできる従業員ばかりではない。マニュアルでは、ネット環境のあるカフェの利用なども案内されているが、勤務時間のすべてを過ごすわけにはいかない。会社では、場所を決めて「ドロップインオフィス」を契約し、その利用方法をガイドする。オフィスでもない自宅でもない、いわば公共の場であるドロップインオフィス。利用に際しては、セキュリティ上のルールも、事細かに決めておかねばならない。
次のような項目がリストされえいる。
・PCには必ずプライバシーフィルターを使用し、周囲から画面が見えにくいようにする
・会社、個人所有の携帯電話は必ずロックする
・電話の場合はブースなどに移動し、周囲に機密情報が聞こえないよう配慮
・シンクライアントPCの利用が必須。アップデートなどは事前に会社勤務の日に
マニュアルには、勤務ルールやセキュリティ、会議ルールのほか、契約書の代表者押印、社判押印、経理関連の対応など、オフィスではアクションが必要な処理をテレワークではどうやって対応すれば円滑に業務が推進できるかが記載されている。
メンバーズは、このテレワークの取り組みを、オリンピック大会時の交通混雑緩和を目指す「2020TDM推進プロジェクト」主催による企業向けセミナーにて成功事例として発表。また、19年11月には総務省主催の「令和元年度テレワーク先駆者」にも認定された。
メンバーズでは、テレワークの成果に繋がった「テレワーク導入マニュアル」を公開することで、「新型コロナウイルスの感染拡大防止の局面において、テレワークの導入を検討している企業・団体の皆さまにとって、広く活用いただければと思います」としている。