障害年金をご存知ですか。障害年金は、国民年金法、厚生年金保険法等に基づき、疾病または負傷(傷病)によって、所定の障害の状態になった者に対して支給される公的年金になります。
障害年金は公的な制度にも関わらず、あまり知られていません。制度や手続きがわかりづらく、医療従事者や支援者さんにも正しい情報が行き届いておらず、また手続きの準備に時間がかかることから、申請をあきらめてしまう人も少なくありません。
知りたいことが全部わかる! 障害年金の教科書(漆原香奈恵著, 山岸玲子著, 村山由希子著)ソーテック社
障害年金にはメリットがたくさん
障害年金は、病気やケガで日常生活に支障が出ているときや、安定して働くことが難しいときにもらえる公的な年金であり、老齢年金や遺族年金と同じ国の制度です。
障害というと、すごく重症な状態を想像してしまいますが、じつは多くの病気やケガが対象となります。
病気やケガは、誰にでも当事者になる可能性があります。病気やケガで日常生活への支障や不安を抱えているご自身やその家族に、障害年金という心の糧となる存在に気づくことで、「よくわからないまま」ではなく、「納得しながら請求手続きをする」ことが大切です。
障害年金は親亡きあと、子供の力強い味方となってくれます。適切なサービス、サポートが受けられるようになり、自立につながるケースも多くあります。また、経済的な安心をもたらすだけでなく、精神的な不安を軽減することにもつながります。
しかし、障害年金の存在を知らずに、もらえるはずの年金の手続きをしていなかったり、いざというときに手続きを進めようとしたところ、ふだん見慣れない書類を適切に準備する過程で、その手続きの煩雑さに頭を抱えて、あきらめてしまったりすることもあります。
障害年金は公的年金であるにもかかわらず、まだまだ知られていないのです。自分には無関係と思い込んでいる人が多いのです。じつは身近なさまざまな病気やケガでも、誰しもが障害年金の要件を満たす対象者となる可能性があります。公的年金は障害年金を含めて、「保険」としての機能を持つのです。
障害年金の相談の場では、仕事のこと、家族のこと、将来のことなど、多くの不安の声があります。とりわけ、わが子が障害を持っていると、自分が亡くなったあとの生活について漠然とした不安を抱えています。将来の選択肢について考えて、利用方法を確認しておくことで、不安が軽減されるはずです。
障害者政策は喫緊の課題
本書は、3人の専門家が受給するための要件、煩雑な手続きについて、わかりやすい言葉で説明しています。また、障害年金だけではなく、その他の給付や福祉サービス、成年後見制度や民事信託の活用など親亡き後の生活の支援までを網羅しています。
筆者は、障害者支援活動を行なっています。障害者年金はハード面でのサポートになりますが、ノーマライゼーションを浸透させるには、ソフト面における意識改革も重要です。
「ノーマライゼーション」は、デンマークのバンク=ミケルセンによって提唱された概念になります。「障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿である」というものです。国際障害者年(1981年)の国連決議を経て、今では社会福祉の基本的な考え方として理解されています。
内閣府の「平成29(2017)年度障害者白書」によると、身体障害者は392万2000人、知的障害者は74万1000人、精神障害者は392万4000人とされています。国民の6%が何らかの障害を有するとも言われるなか、障害者政策は私たちにとって喫緊の課題です。
なお、筆者は表記について「障害者」を使用し、「障がい者」は使いません。過去に多くの障害者が権利を侵害されてきた歴史が存在します。それらの歴史について、言葉を平仮名にすることで本質がわかりにくくなる危険性があるので、「障がい者」を使用しないことにしています。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題です。(尾藤克之)